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「俺、派遣会社が大嫌いなんだよね」と言う派遣会社社長は、なぜこの職種を選んだのか

三好 優実

2019.11.18

「関わる人みんなに、幸せになって欲しいんだよね。」

会うたびにそう話すのは、株式会社ヒューマンサポート代表取締役であり、おきなわマグネット運営会社社長の「粟國 英雅(あぐにひでまさ)」さん。

派遣会社の社長なのに派遣会社が嫌いで、親身になりすぎる派遣会社をコンセプトに掲げる粟國さんは、まっすぐに正直で終始明るい、竹を割ったような雰囲気をもつ人。

しかしなぜ派遣会社が嫌いなのか?なぜ嫌いなのに派遣会社の社長なのか?なぜ親身になりすぎる働き方を選んだのか?ちなみに社長って休みあるの?そんな働き方へのギモンを全部聞いてきました!

なんで派遣会社が嫌いなの?

【Profile】株式会社ヒューマンサポート代表取締役:粟國 英雅(あぐにひでまさ)。派遣会社をこよなく嫌い、従来の派遣会社とは異なる「正社員特化型」スタイルの派遣会社を運営している。

三好

早速ですが、どうして派遣会社の社長なのに派遣会社が嫌いなんですか?

粟國さん

派遣って言葉がそもそも嫌いなんだよね。

スタート時点からバッサリ切られましたが、実は株式会社ヒューマンサポートの方針は、「派遣=ずっと派遣」ではなく、「派遣=お見合い期間」という考え。相性が良ければすぐ正社員になってもらう「正社員特化型」という仕組みを取り入れているのだそうです。

(すごい嫌そうな顔で派遣会社を語る粟國さん)

粟國さん

俺は仕事を通して幸せになる人を増やしたいと思ってる。だからお見合い期間を経て、相性が良ければすぐに正社員になって欲しいんだよね。そしたら、企業も人もハッピーじゃない?

三好

でもすぐに正社員になったら、ヒューマンサポートが儲からないのでは?

粟國さん

それがそんなこともなくてさ。誠実にやってるから企業からも信頼してもらえるし、口コミでいい人材も来てくれるんだよね。有難いことに。

三好

なるほど、誠実こそ一番の宣伝になるわけですね。けど、派遣から正社員って、すぐになれるものなんですか?(派遣は派遣、で終わりそう・・。)

粟國さん

俺がしょっちゅう企業に行って、色々話すからね!例えば派遣さんが、その会社のことを好きで一生懸命頑張ってたら『御社の取り組みにとっても共感して、仕事が楽しいって言ってましたよ~』みたいなことを伝える。で、企業側にも『他の社員と比べて能力どうですか?』って聞く。そしたらめちゃくちゃいいよって言ってもらえたりする。だから正社員で雇ったらどうですか?って言っちゃう、っていう流れだね。

三好

企業からは、どんなリアクションが返ってくるんですか?

粟國さん

だいたい『いいの?!』みたいな反応なんだけど、お互いがハッピーになるなら、こっちは『どうぞどうぞ』って話なんだよね~。

(粟國さん、めちゃくちゃ嬉しそう・・)

粟國さん

でも多くの派遣会社は、儲けのためにずっと派遣でいることを望むでしょ。人を動かして利益を得るっていうビジネスモデルがすごく嫌いなんだよね。

三好

なるほど~。

なぜ派遣会社をやろうと思ったの?

三好

派遣嫌いな理由は分かりましたが、そもそもなぜ派遣会社をやろうと思ったんですか?

粟國さん

実はこの会社は、俺が会社員人生の中で務めた3つ目の会社の派遣事業を買い取った形でスタートしてるんだよ。そこに入社する前は、まさか自分が派遣会社をやるとは思わなかったんだけど、いい出会いがあったんだよね。

会社員人生2社目がブラック企業だったと言う粟國さん。毎日汚い言葉で責め立てられて、3年半働いた中で顔面神経通やストレス性腸炎などを患ったのだそう。そして転職を考え始めたタイミングで仲が良かった社長に派遣をすすめられ、転職に至ったと話します。

粟國さん

ブラック企業時代は、俺の中で超暗黒時代。生きてきた中でこんなこと言われたことない、と思うような言葉を毎日浴びせられて、上司のこと『殺したい』って毎日考えてた。

三好

殺したい、ですか・・。

粟國さん

まじで、人生で楽しくなかった飲み会ベスト5は全部この会社!でも世間体を気にして辞められなかったんだよね。転職のきっかけになったのは、3.11のニュースだったな。

(「あれは衝撃だったな~」と、渋い表情)

粟國さん

3.11の、本当なのか嘘なのか分からない映像をテレビ越しに見て思ったんだよね。『この人たちは、“明日これをやろう”って考えてたはずだよな~』って。そしたら急に世間体を気にしていた自分がバカらしくなったんだよね。で、辞めようって思ったタイミングで、よく飲んでた社長に『人材派遣をやろうと思ってるんだけど、どう?』って誘われたわけ。

三好

その時は派遣会社いいなって思って入社を決めたんですか?

粟國さん

当時から派遣という言葉は好きじゃなくて、けどその社長のことを尊敬してたから、この人の下で働きたいって思ったんだよね。

三好

なるほど。入ってみてどうでしたか?

粟國さん

入るとやっぱり派遣業って嫌だなって思った(笑)。『あそこにはあいつ行かせよう』みたいな、“人を使って利益を上げる”っていうのが定着してて。俺は自分が経験してないことはさせられんって思ったから、まず自分が実際に働いてみてから派遣さんを紹介する形にスタイルを変えたんだよね。だってそうでしょ?派遣の人たちが俺らの生活を守ってくれてるんだから、俺らも守らないといけないっていうのは、すごく自然なことだと思う。

粟國さん

そんな風にやってたらどんどん紹介が増えて、しかも感謝されるようにもなった。夫婦とか家族ごと転職させたこともあるし、派遣から社員になって、取締役まで昇りつめた女性もいるよ(笑)。人の人生が楽しくなるのを見ると『やっぱ正社員特化型がいいな』って思ったんだよね~。だから会社が嫌いだったわけじゃないけど、『業界が嫌いだからこそ変えてやる』って気持ちが強くなった。で、買い取らせてくださいってお願いしたら、いいよって。

(キラーン。)

三好

(なるほど。最初から好きだったんじゃなくて、やり方を変えたから好きになったということか。)

粟國さん

あっ、ちょっと待ってね。社員が帰るみたいだから。

突然立ち上がり、社員さんの見送りに向かった粟國さん。

(定時ぴったりに帰る22歳、若手社員。)

三好

若手の人も定時に帰れるなんて、めっちゃホワイトな会社ですね(ブラック出身の社長さんって、ブラックやりがちだと思ってた・・)。

粟國さん

いや、俺パワハラするからよ。

(「社長より先に帰りやがって~」と、乳首をツンツンして見送る粟國さん)

三好

(めっちゃ仲良しだな・・)
みなさん結構定時に帰るんですか?

粟國さん

帰るよ~。忙しい時は残業もあるけど、基本的には定時で帰る。俺もだいたい18時に出るよ。俺の場合、基本お酒は絶対だから。今日は二日酔いだから飲まないけどね。

三好

(二日酔いだったんだ・・。)

粟國さん

他のメンバーもそろそろ帰るから、オフィス紹介するよ~。

三好

お願いします!

(鼻をほじりながらオフィスに入る粟國さん)

(「最近どう~?」と、社員の肩を揉みはじめる粟國さん)

(わきあいあいとした雰囲気漂うオフィス内。いつも冗談が飛び交っているらしい)

三好

めっちゃ仲良しですね。

粟國さん

仲いいよ~。前職の時からついてきてくれた社員もいるからね。ついに最近社員同士でカンチョウするという事件も起こったよ。度を超えて仲がいいよね(笑)。

三好

カンチョウですか・・。

その後、カンチョウについて10分ほど盛り上がった後、「あ、こんな時間」と呟き、続々と帰宅し始める社員さんたち。

(こんな感じでカンチョウしてるよ!と実演してくれる粟國さん)

(カンチョウにも動じず帰っていく社員さんたち。慣れてる・・・。)

(帰り際まで明るさ全開。アフターファイブ楽しんできます感すごい。)

三好

粟國さん含め、みなさん早めに帰宅できるのって、粟國さんの指針だったりするんですか?

粟國さん

うちはやるときはやる、やらんときはやらんスタイル。俺自身、ブラック企業経験も経て思うんだけど、休まないと悪い流れに気付けなくなると思うんだよね。

「今日はここまでやろう」ではなく「ここまでやったら休む」。働き方は全部「自然」が教えてくれた

(「今日忙しかったんだよね・・」と、突然脱力モードに・・。)

粟國さん

本当に仕事ができる人は『今日はここまでやろう』じゃなくて、『ここまでやったら休もう』って決められる人。だからやるときはやるし、やらんときはやらんっていうのを徹底してる。休みの日は家族と川とか行くんだけど、大事なことは全部自然が教えてくれたんだよね。

三好

(??)自然ですか?

粟國さん

そう、自然。例えばカヌーって、干潮と満潮で進み方が全然違うでしょ?それって仕事も同じで、ダメなときは何やってもダメだし、いけるときはスイスイ行けるもんなんだよね。だから流れに無理に逆らおうとせず、やるときやらないときを見極めるっていうのが大事なんだよ。

(こういうのやってるんだよ~と、楽しそうに見せてくれました)

ブラック時代、世間体を気にして辞められなかった経験を経て、辞めるという選択も、カタチを変えて続けるという選択も経験した粟國さん。

初対面から明るく接しやすい雰囲気だったのでブラック企業で働いた経験があるのはとても意外でしたが、派遣が嫌いということ、その中で派遣を選んだということを話す粟國さんは、暗黒時代含め、今までの経験でひとつも後悔がない印象でした。

それは正しい選択をし続けたというよりも、その時々の感情と自分自身が向き合ってきたから「自分の働き方」に出会えたのではないでしょうか。

今回の取材で一番感じたのは「自分らしい働き方」というのは無限大に存在するということ。好きか嫌いか、辞めるか続けるかの一択ではなく、自分の中にある「(好き/嫌い)だからどうしたい」に耳を傾けることが、自分らしい働き方を見つける近道なのかもしれませんね。

 

<取材・文:三好優実/撮影:蓮池ヒロ>