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個人事業主の右腕ビジネス「アグリゲーター」ってどんな仕事?U-WAN代表・棚原秀樹さんに聞いてみた

長濱 良起

2019.12.18

アグリゲーターというお仕事、みなさんは知っていますか?「アグリゲーター」は直訳すると英語で「集約する人」。人や物、情報や事業といった、ありとあらゆるものをかき集めては相手が抱える課題を解決に導く専門家です。

沖縄県内ではあまり知られていない働き方・概念であるがゆえに「初めて聞いた」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は県内で活躍する実業家・個人事業主を相手に「アグリゲーター」として関わる「棚原秀樹(たなはらひでき)」さんが登場。

自らは表舞台でスポットライトを浴びないながらも「誰かの右腕に徹して、サポートする」働き方の素晴らしさ、聞いてみました。

それでは、本日の主役に登場してもらいましょう。

アグリゲーター・棚原秀樹さんです!!
(クライアントさんの貸しオフィスに満面の笑顔で登場!これでもかという笑顔で登場!)

【profile】たなはら・ひでき 「沖縄の中小企業・個人事業主の右腕」として、経営や事業のスピード化や効率化を支援する。「評論家ではなく、提案者であり行動者」を標榜し、二人三脚でのパートナーシップを築いている。

コンサルタントとの違いは「プレイヤーとして一緒に課題解決」すること

長濱

そもそも、アグリゲーターってどんなお仕事なんですか?経営を助けるというと、経営コンサルタントみたいな仕事なのかなぁと想像します。

 

棚原さん

アグリゲーター(aggregater)は『集める人。集約する人』という意味です。人や物、情報などさまざまな経営資源を集めてきて、一緒になって課題解決を図ります。定義としては『自分にできることを、その環境の中で発揮する人』というような感じです。まだ2年目で、ピヨピヨのヒヨコみたいなものですけどね。

長濱

経営コンサルタントは外から相談役に徹するイメージで、アグリゲーターは内側のメンバーとして一緒に動くイメージなんですね。

長濱

「アグリゲーター」になったきっかけは何だったんですか?

 

棚原さん

大学を出て企業に就職したんですが、大学時代に思い描いていた『海外に住む』ということを実現しようと決めました。でもそのためには外向きの理由を用意しなきゃいけないと思いまして。で、『大学院進学』ならいいだろう、箔は付くでしょうと。そしてたまたま見つけたのが、オーストラリアでビジネスを勉強する学校でした。そこでどうやら『MBA(経営学修士)』というものが取れるらしい、『経営コンサルタント』という仕事があると知ったんです。

長濱

きっかけは本当にたまたまだったんですね!

 

棚原さん

はい。卒業後は東京のコンサルで働いていて、その後、沖縄に帰ってIT企業に就職した後、経営コンサル会社で働きました。働いている中で、ノウハウをただ遠くから提供するコンサルの在り方は“自分には合っていないんじゃないか”と感じるようになり、もっと近い距離感で人や企業の役に立ちたいと思い、アグリゲーターとして独立しました。

アグリゲーターとして棚原さんが独立し、設立した「U-WAN(ユーワン)」

①U⇒You、「あなた」の側近として貢献したい。
②あなたの右腕⇒U-WAN(ウワン)になりたい。

という2つの意味が込められています。

小中高とサッカー部に所属していた棚原さん。キーパー以外は全てのポジションを経験してきました。相手のゴールネットを自ら揺らす点取り屋でもあるフォワードも任されたことがありますが、「自分のシュートが決まることよりも、自分のパスを受けた味方がゴールが決めた時の方が嬉しかったんですよね。」と棚原さんは記憶を掘り返していきました。

棚原さん

中3の時、試合で僕が蹴ったコーナーキックを、キャプテンがジャンピングボレーでかっこよく決めたんですよ。あれは一番印象に残っています。当時の監督も、あまりにも華麗なシュートにピッチ外から『ワールドカップ!!』って叫んでいました。

長濱

ワールドカップ!笑 だいぶカッコよかったんでしょうね。

その瞬間、一番目立っていたのは言うまでもなくキャプテンでした。もしかしたら、棚原さんの蹴ったコーナーキックは誰も気に留めていなかったかもしれません。それでも、自身のサッカー人生で一番印象に残ったプレーとして、この日のコーナーキックを挙げます。

棚原さん

主役やヒールじゃなくていいんです。(戦隊ヒーローで例えると)理想は黒レンジャーです。赤ほど目立たないけど、実力はあるよ、みたいな。誰かが良い方向に変化したり、上に上がって行ったり、その状況を『見ている』のが好きです。

長濱

その楽しみが『アグリゲーター』という職種の魅力に繋がっているんですか?

 

棚原さん

アグリゲーターの仕事の面白さは『内部にいる』という感覚を持って仕事ができるところです。携わる会社に全て関わっていて、本当に、社長の右腕という気持ちで仕事をしています。一緒に商談に参加することだってありますよ。

棚原さんは、契約している企業や社長さんに対し、決まって話していることがあります。それは「いつでも連絡を取りたいし、取って欲しい」ということ。契約上は月に数回・数時間とうたってはいるものの、実際はそれを超えることも多いのだとか。

棚原さんの仕事の醍醐味は「人の魅力を引き出すこと」。だからこそたとえ時間がかかったとしても「アドバイスや指摘」より「信頼関係を築いてその人を知ること」に重きを置いています。

実際のアグリゲーターの仕事の現場を見てみよう!

この日、棚原さんが「右腕」としてサポートするのは、企業向けに動画制作のサポートなどを行う「まとばクリエイト沖縄」の佐久本健太朗さん。


【※お仕事のお話なので、一旦遠くから眺めることに。】

「あの件なんですけどね。」顔を見た瞬間、待ってましたと言わんばかりに話し始める佐久本さん。本題までのスピード感から、ふたりの信頼関係が垣間見えます。

棚原さんが真っ直ぐ優しく向ける視線の先には、自らのビジョンを熱っぽく語る佐久本さんの姿があります。聞き上手な棚原さんの柔らかで分かりやすい語り口は、妙な安心感があります。

佐久本さんは、棚原さんが「右腕」になってくれることで「毎日が楽しくなった」といいます。

長濱

佐久本さんは、いつ頃から棚原さんにアグリゲーターとして依頼しているんですか?

 

佐久本さん

2019年7月に出会って、9月にスタートしました。

長濱

佐久本さんが棚原さんと一緒にお仕事されているきっかけって何だったんでしょう?

 

佐久本さん

共通の知人です。当時、自分の事業自体も『もうちょっと何かが変わったら上手くいきそうだ、動画で人を幸せにできる』っていう思いがあったんですけど、それが一体なんなのか分からなくて、それが始まりでした。

長濱

まだ会ったことのない人に何かを相談するっていう買い物、場合によっては結構勇気が要りそうですけどね。

 

佐久本さん

そうなんですよ!なので自分も最初は『この人に頼んで何かが変わるのかなぁ』という部分は確かにありました。けど『自分と価値観の違う人から話を聞いてみよう』と思い立ちまして、話を聞いたところ、全然違う発想が面白くて。それからの今です。

長濱

実際、棚原さんと今一緒にお仕事されててどうですか?

 

佐久本さん

すごくこちらにプラスのことが返ってきます。まず、1日1日が楽しくなりました。自営業で『仕事が途絶えたらどうしよう』という不安もあるんですが、その不安を払拭するような、自分がいきいきできる働き方を提案してくれます。

長濱

へぇー!例えばどういった提案があったんですか?

 

佐久本さん

一番大きかったのは『教える方が向いてるんじゃないですか?』と提案してくれたことです。今までは作るだけだったので全然頭になかったことだったけど、言われた瞬間に『それだ!』と思いました。新たな試みでしたが、実際に既存のクライアントに提案する資料作りも、棚原さんが枠組みを一緒に考えてくれたことで、挑戦することができました。

長濱

実際に提案した時のクライアントの反応はどうだったんですか?

 

佐久本さん

実はタイミングも良く、その会社さんも動画制作を学びたいと思っていたみたいで、僕の提案がスッと通ったんです!しかも、「教えること」が自分に向いていたのか、僕自身もすごく楽しめていました。気付いたら日ごろからに“次はクライアントさんにこのことを伝えよう”と、毎日わくわくして過ごせるようになりました。継続的な案件になるので、経済面での見通しが付いて安心材料も増えるなどいいこと尽くめです。

長濱

すごいですね。棚原さん、救世主ですね。他には何かありますか?

 

佐久本さん

クライアントとの関係性が変わって、金額の損得で評価されなくなりました。価格競争で『安いから頼もう』ではなく、棚原さんと一緒に仕事をするようになってからは『佐久本さんがやってくれるから頼もう』という価値を生めるようになりました。自分のクライアントさんに『今後佐久本さんがいなくなってしまったらどうしよう』と言ってもらえた時は『お金じゃなくて自分のことを評価してくれているんだな』と嬉しかったです。

長濱

すごい右腕ですね!

「誰かの右腕」というアイデンティティー

長濱

右腕として、心がけていることってありますか?

 

棚原さん

『その人を知る』ということです。その人が持つスキルだけを対象にすると技術の優劣などで値段がつけやすく、価格競争が発生してしまいます。しかし『その人自身』で勝負すると、その人の存在そのものがが唯一無二の価値になります。だからこそ、僕は『〇〇をやった方がいい』というコンサルティングをするよりも、その人を知ることに多くの時間をつかいます。特性や人間性を知って、その人にしかない武器を見つけることが、右腕として一番大事なことだと僕は思っているので。

長濱

なるほど!棚原さん、ずばり、右腕の美学とは何でしょう?

 

棚原さん

誰かが点を取ることを、隣で自分も喜べることです。やっぱり右腕が大好きです。社長さんが動きやすくなるような立ち位置が好きです。一緒に働いているという『内部感』があることで、誰かに仕事を無理やりさせられているという感覚がありません。自分で責任を負いながら、自分の判断で仕事をできることも、魅力のひとつです。

長濱

今、お仕事楽しいですか?

 

棚原さん

めっちゃ楽しいです。めちゃくちゃ楽しいです。]

 

(めちゃくちゃ楽しそうな棚原さん)

 

サッカー部時代は全てのポジションを経験していた棚原さん。だからこそ、攻めの楽しさにも守りの楽しさにも触れていたはず。それでも一番楽しいプレーはラストパスでした。しかも、人が決めたシュートがかっこよければかっこいいほど、棚原さんは人目に付かず心の中でガッツポーズをかましていました。

さて、唯一経験していないというゴールキーパー。今回登場してもらった佐久本さんは、棚原さんが右腕としてそこにいることで「不安を払拭できた」「安心材料が増えた」と話していました。相手の不安を消し去る技術のある棚原さんは、どんなシュートも跳ね除けゴールを守るゴールキーパーそのものです。

棚原さんはもうすでに全ポジションを制覇してるのではないかと、僕はそう思っています。

<取材・文:長濱良起/撮影:砂川諒>