最高ランクの肉をコスパ良く提供する「肉やへんざ」は、親子のチームワークが最強だった
2020.03.30
share:458
2019年後半ごろから、SNSで頻繁に見かける飯テロ店。そんな印象だったのがここ「肉や食堂inへんざ」でした。
「肉や食堂inへんざ」は、高級ランクのお肉がコスパ良くいただけることで人気のお店。元々大阪で精肉店を営んでいた南さん親子(母:亜裕里さん・息子:雄大さん)が営んでいます。
“家族経営ってなんとなく大変そう”、そんなイメージありませんか?喧嘩しそう、プライベートでも職場でも顔を会わせると仲悪くなりそう…そう思う方も、ここに来ればふたりの仲良し度合にほっこりするはず。なんてったって、笑顔100%のお母さんは秘めたる苦労人、そして一見おだやかで優しそうな息子さんは、内なる情熱の持ち主です。そしてそのふたりのコンビネーションが最強なんです。
今回はそんなおふたりの『親子経営』についてお伝えしたいのですが、その前にこの店の素晴らしさをお伝えする必要があるので、まずは美味しいお肉たちをライター三好が食レポします!(食べたい)
A5ランクのお肉のみをコスパ良く提供する「肉や食堂inへんざ」
「肉や食堂inへんざ」は、大阪で、50年両親の代から精肉に携わってきた母「南 亜裕里(みなみ あゆり)」さん創業のお肉専門店。(精肉店としても営業しています)
いわば『肉のプロフェッショナル』である南さんが、仕入れから調理まで徹底的にこだわったお肉を食べることができるのが、ここ「肉や食堂inへんざ」の最大の魅力です。
「仕入れのこだわり」のレベルの高さで分かりやすいのは、使用するお肉はすべて“A5ランク”の高級品だということ。
A5ランクとは・・・和牛と呼ばれるジャンルの中でも、サシ(脂)の入り方などが最高の評価を受けた、一部の肉にしか与えられない称号。(肉や食堂inへんざ公式ページより参照)
そして最高の食材ながら、調理するのは50年もの間、三世帯で肉と向き合ってきたプロフェッショナル。
肉や食堂inへんざでは、部位やその時々の肉の状態に合わせて最適な調理方法を選択しています。なるべくお肉の味をそのまま楽しめるよう、味付けも最小限にしているそう。
そんなこんなで、こんな料理や
こんな料理が登場します!
食べます!!
グルメ記事じゃないので、他メニュー紹介や細かい価格は割愛しますが、今すぐ食べたくなった方は公式サイトのメニューページを参照して足を運んでみてください。
牛カツは、食べる直前にバーナーであぶってくれます。
あぶった後は瞬時に口に放り込みましょう。
はい。最高です。
美味しすぎて『美味しい』以外の言葉が出てきません(職務放棄)。カメラマンさんの目を見ると、カメラマンさんも目がキラキラになってました。
A5赤身牛カツは、2380円という手が届くお値段にも関わらず、素人の私でも『2000円代で食べられる代物ではない』というのが直感的に分かる味。
ありきたりな表現で申し訳ないんですが、口の中でとろけるんですよ。牛カツはこんなに表面サクサクなのに、なぜ中のお肉は溶けていくのでしょうか。不思議です。
もはや言葉を尽くせば尽くすほど安っぽくなりそうなんで、とりあえず一度食べに来てください(真顔)。
きっかけはご主人の他界。「あの人の夢をかわりに実現したかった」
もう画像見ただけで度を超えて美味しいのが伝わってくるし、飲食業界勝ち組の匂いがプンプンする肉や食堂inへんざ。大阪から来た瞬間、すぐさま繁盛店になったのでは。
ということで、大阪から沖縄に来た当時の話を、南 亜裕里さん(お母さん)と雄大さん(息子さん)にお聞きしました。
大阪で人気精肉店をされていたと聞きましたが、精肉店を辞めて沖縄に来たのはどうしてですか?
元々、主人が沖縄大好きで、ずっと『いつか住みたいね』って話してたんです。でも実現する前に、主人が他界してしまって。そしたら主人の沖縄愛が乗り移ったかのように、すぐに住みたい気持ちになっちゃって。
ご主人が叶えられなかった夢を実現しようと来られたんですね。
そうですね。あと私自身、主人を亡くしたショックもあり、YouTubeで沖縄の動画を見ないと仕事ができないという日々が続いていたんです。それでも仕事はとても忙しくて。そんな中、肩の腱が切れてしまって自力で力を入れられなくなったんです。休むわけにはいかないので、沖縄から力をもらいながら、包丁を手にくくりつけて働いてました(笑)。
めちゃくちゃストイックというか、心配になるくらいのプロ意識ですね。でも手に包丁をくくりつけるほど忙しい日々の中でも、沖縄は亜裕里さんにとって癒しの存在だったということでしょうか?
はい。Googleearthで行けるところはだいたい行きましたよ(笑)。その中でも平安座島、宮城島あたりがいいなと思って目をつけていました。
それでこの場所にお店を?
はい。もうね、来た瞬間『きゃーーーー♡』ってなりました!!
『ここだ』と思える場所に巡り合った亜裕里さんは、当時大学に進学したばかりの雄大さんを大阪に残し、現在調理を担当するお母さん(祖母)と下の子と共に、沖縄に訪れることにしたそうで。
そしてすぐにお店を?
はい。当時、雄大は大学生だったので、卒業後に沖縄で待ってるねと話し、母と私と下の子で、先にここ(平安座島)に移住を果たしました。
こんなに美味しいお肉がコスパ良く食べられるお店なんて、オープン初日から話題になったんじゃないですか?
それがね、オープン当初は大変だったんですよ~。
オープン4日前に大型台風でお肉70万円分が廃棄!乗り越えられたのは、島の人たちのおかげ
実はオープン4日前に、大型の台風が来てしまって。2回停電したもんだから、大量に仕入れていたお肉が全部ダメになっちゃったんですよ。お肉だけで70万円くらい廃棄になって、お店の土地も買っちゃったし、どうしようと毎日シクシク泣いてました。
うわ・・それはきついですね。どうやって乗り越えたんですか?
ウッドデッキで号泣しているところを自治会長さんが通りかかって、色々と相談にのってくれたんです。その台風の損失で広告も打てず、お客さん来ないだろうなと諦めていたら、なんと自治会長さんが島中の人に一軒一軒電話で声をかけてくれて!自治会長さんのご好意あって、オープン数日後は島の人でいっぱいになりました。
温かい・・。素敵なお話ですね。
その後も、訪れた島の人たちがSNSで広めてくれて。SNSだけでたくさんのお客様に恵まれました。本当にこの島の人たちは、とても温かいんです。
その恩もあるからこそ亜裕里さんは、最高ランクのお肉を、“2回ランチを我慢したら食べられる金額”におさえることを徹底していると言います。
お肉をこの値段で売るには人を雇えないので、幼馴染のみっちゃんとふたりで営業していました。けど、私のこだわりが強すぎて、あまりにも時間も仕入れ値もかけて安い金額で提供するということをやっていると、お店は繁盛してるのになぜか赤字という現象が起こってしまって。
そんなことあります?(驚)それは・・どうやって乗り越えたんでしょうか。
赤字回復の救世主は、飲食好きを極めた息子の存在
お客さんが喜んでくれたら、嬉しくてつい色々やっちゃうんですよ(笑)。それを雄大に話したら、あかんって言われました(笑)。
そこで雄大さんが登場するんですね!
私はなんで赤字なのか分からなかったんですけど、雄大に見てもらったら『粗利が合わない』って怒られました(笑)。私には飲食経営の脳みそがないから、このままだとお店が潰れてしまうと思いました。そして雄大に沖縄に来て欲しいとお願いして、2019年3月に来てくれることになったんです。
(雄大さんに)沖縄に来て欲しいと言われたとき、どう思いましたか?
2時間くらい迷いましたが、割と即決でした。元々沖縄は好きだったので。最初お店を見たときはびっくりしましたけどね(笑)。メニューは高いものも安いものも混在しててゴチャゴチャしてたし、粗利が合わないし、やってはいけないパターンにはまっている感じで。
雄大さんが来てからというもの、お店は大きく大改革!実は元々食べ歩きが好きだった雄大さんは、大学生時代は毎日外食し、あらゆる飲食店の分析データを頭の中に蓄積していました。
あるときから、『このお店は来年もうなくなると思う』とか言うようになったんですよ。探求心もすごくて、もうないと思ったお店にも曜日を変えて足を運んだりして、ちゃんと見極めようとするんです。そこまでして『やっぱだめや』と雄大が言ったら案の定なくなっていた、ということが結構ありました。
『このお店は来年もうない』までは食通ならある感覚な気がしますけど、そこに再度曜日を変えて訪れるところがめちゃくちゃプロですね!
いつからかお店のコンセプトを見る癖がついたんです。だから母の店に来たときに一番にコンセプトのブレが気になりました。僕が来てからは、メニューから内装から、大幅に変えました。
喧嘩とかしなかったんですか?
あんまりない方だとは思うんですけど、ハンバーグを辞めるか辞めないかは喧嘩になりました(笑)。ハンバーグはめちゃくちゃ売れるけど時間がかかるので、コスト計算したら赤字なんですよ。赤字だから辞めたい僕と、売れるから残したい母とで『やめる!』『嫌や!』の繰り返しでしたね。
なるほど(笑)。めちゃくちゃ売れるけど赤字って、それだけ聞くと大分やばいですね。w
これをやるから赤字なんだって話を何度もして、粘り強く説得した結果、ハンバーグを辞めてハンバーグカツを出すことで折り合いがつきました(笑)。
赤字なものほど、よく売れるんだよね(笑)。
コスト計算やメニューの見せ方など、経営視点で変えていくのはもちろんのこと、顧客分析も欠かさない雄大さん。世の美味しいもの好きがやりがちな「これもあれも食べたい」と迷うお客さんの動向をしっかり観察し、ロースやサーロインなど7種類のお肉から数種類(全部でもOK)を組み合わせて一皿で提供するというオリジナルメニューも考案しました。
雄大さんのおかげで無事、肉や食堂inへんざは黒字回復し、現在はA5ランクのお肉をコスパ良く提供しながらも、お店としてもしっかり経営ができているのだそうです。
亜裕里さんのお肉愛とこだわり、そして雄大さんの経営感覚と飲食店愛が組み合わさった肉や食堂inへんざは、もはや最強といえそうです。
(雄大さんに)今振り返って、沖縄に来て良かったと思いますか?
確実に良かったです。島に来て2日目くらいのとき、島の今後を考える会に参加させてもらったんですけど、そこで『本気で仕事をしている人』を初めて見たんです。それを見て『僕はこのために沖縄に来たんだ』と感じました。今でも、すごい社長さんに声を掛けていただけたり、毎日かけがえのない出会いと学びばかりの充実した日々を過ごせています。沖縄に来ていなかったら、きっと遊んで暮らしていたと思います(笑)。
今後は独立なども考えているんですか?
はい!イチから立ち上げたいという気持ちが強いので、いつか自分のお店を持ちたいです。
私も若いときから経営をやっていたので、取り返しがつく元気がある時に挑戦して、たくさん失敗すればいいと思ってるんですよ。
そうなると、やっぱり亜裕里さんからお肉を卸してお店をやる感じでしょうか?
そうですね。でも、そのままの値段では渡しません。ちゃんと商売ができるように、他の業者さんと同じ金額で卸そうと思っています。
こんな感じでおふたりは終始、思い出話も未来の話もネタが尽きません。ふたりから感じたのは、『仲がいいけどビジネスでの1線がある』ということ。雄大さんは、仕事に「親子」を持ち込みません。親だから、子だからではなく、「肉屋としてどうあるべきか」をふたりで話し合い、あらゆる決断をしています。
一方、亜裕里さんは、そのお人柄もあって周りの人を巻き込みながらあらゆる困難を乗り越えています。そして、どんな状況にあってもお客様へのおもてなしと周囲への感謝を忘れません。どれだけ辛くても、笑顔と優しさ、そして何事も乗り越えるエネルギーのある人です。
ふたりがお互いを思いやりながらも、お互いの持つ『プロ意識』を譲ったり譲らなかったり、尊敬し合ったり尊重したり、そんな風にしながら乗り越えてきて、そしてこれからも乗り越えてゆくのだろうと感じました。
美味しくてフォトジェニックなお肉。それだけじゃない、強い気持ちと絆を感じる「肉や食堂inへんざ」。今日もきっと、とびきり美味しいお肉でお客さんを笑顔にしていることでしょう。
◆肉や食堂inへんざ 公式ページはこちら
<取材・文:三好優実/撮影:蓮池ヒロ>