沖縄移住応援WEBマガジン「おきなわマグネット」

教育クリエイター8割、泡盛ガール2割。あらゆる選択肢から自分で人生を選び取る

佐藤 智

2020.01.31

教育クリエイターとして、感情や社会性など人間の土壌を豊かにするSEL(社会性と情動の学習)で全国の学校などをサポートしている下向依梨さん。2019年には沖縄で、株式会社roku youを創業しました。

また、下向さんには泡盛ガールとしての顔も。泡盛の魅力や文化的価値を、イベントなどを通してPR活動を行い、活躍しています。

「仕事内容も働く場所も働き方も、本来は自由。あらゆる選択肢を並べてみることが重要です」と語る下向さん。そのキャリアと現在の働き方、目指すビジョンについてたっぷり語っていただきました。

教育クリエイターとはどんな仕事?

【Profile】下向依梨(しもむかいえり)
株式会社roku you 代表取締役 / 一般社団法人 日本SEL推進協会 代表理事 ペンシルベニア大学教育大学院にて、Social Emotional Learning(SEL)と 出会う。その後帰国し、東京都の小学校で教鞭をとる。教材制作会社で教材・カリキュラム作成の経験を積み、独立。株式会社roku youを立ち上げ、現在はSELをベースにした学びのコンサルティング、またプロジェクト型の学びのプログラムや研修を制作。その傍ら、「泡盛ガール」として泡盛の魅力をネットやイベントで発信している。

佐藤

下向さんはご自身のプロフィールに「教育クリエイター8割、泡盛ガール2割で生きている」と書いていますね。

 

下向さん

そうですね(笑)

 

佐藤

おもしろいキャッチフレーズですよね。まず、教育クリエイターとは何をしているんですか?

 

下向さん

SEL(社会性と情動の学習)という考え方をもとに、学校や企業から依頼を受けて、カリキュラムを作成したりプロジェクトを設計したりしています。

 

佐藤

SELとはどんなものなのでしょう?

下向さん

自尊感情や対人関係能力の育成を目的とした教育アプローチで、日本語では、「社会性と情動の教育」と訳されます。

 

佐藤

教科ごとの学習など、これまで言われてきたいわゆる「偏差値で測るような学力」のことではないんですね。

 

下向さん

はい。SELは、Self Awareness(自己の理解)、Self Management(セルフマネジメント)、Social Awareness(社会や他者の理解)、Relationship Skill(対人関係スキル)、Responsible Decision Making(責任ある意思決定)の5つの能力を育成するんです。

佐藤

人間の土台となるもののようなイメージでしょうか?人間力というか。日本の子どもたちの自己肯定感の低さが問題になったり非認知能力の重要性が叫ばれたりしている中、注目度が上がっていきそうな学びですね。

 

下向さん

そうですね。従来の教育の中では、認知能力やIQと呼ばれる知能指数を高めることが重要視されてきましたが、SELはEQ(心の知能指数)と深く関係があります。

 

佐藤

たしかにそうですね。IQとEQは、どちらか一方しか追えないものなのでしょうか。

下向さん

いえ、IQとEQは相反するものではなくて、相乗効果のあるものなんです。SELによってIQを下支えする認知能力の向上にもつながると、データでも明らかになっている。詰め込み型の学習では伸び悩んでいたとしても、SELでハードルを乗り越えていけることもあるんです。

 

佐藤

現在どのような組織がSELの教育プログラムを導入しているのでしょう?

 

下向さん

大学や通信制の学校、経済的困窮家庭の子どもが通う塾、大学生向けの教育寮などで導入をいただいています。常に5つくらいのプロジェクトが動いていますね。

 

佐藤

SELが担う人間的な土台の部分は、ともすれば、学校ではなく家庭の責任でしょ?と言われてきた部分のように思います。例えば、自尊感情をどう育むか、他者にどう接するかなどは、学校の前段階の問題だという見方が強かった。

 

下向さん

そうですね。学校の中でも、帰りの会でクラスメイト同士で対話したり、部活動で協働性を学んだりと、既存の教育の中で、すでに実践されているアプローチも存在します。しかし、SELが育むような能力の重要性は理解されていても、時間や人材育成面などにおいて大きなリソースが割かれてきてはおらず、優先順位もあまり高くなかったというのが現実だと思います。

 

佐藤

でも、近年学校でもSELが重要になってきていると?

 

下向さん

はい。少しだけ教育制度の話をすると、今「主体的で対話的な深い学び」を学校で行うようにと文科省から方針が示されています。そのため、授業の中でグループワークをしたり、研究をしたりする時間を学校で設けられはじめている。でも、そもそも「これをやりたいんだ」という主体性はどこで育てるのでしょう?また、グループワークの際に多様な価値観を受け入れて、プラスの力にしていく協調性はどこで身に付けていくのでしょうか?

 

佐藤

土台ができていない状態だと、学びの機会を活かしきれないかもしれませんね。

 

下向さん

そうなんです。せっかく授業で取り組んでも、課題解決のスキルは身に付けられたとしても、人間としての器を広げるまでには至らない。本質的な主体性がない学習に陥ってしまう危険性もあるでしょう。

 

佐藤

もっと大前提の部分が重要なんですね。小さい頃からSELのような教育を行っていくことが必要なのでしょうか。

 

下向さん

幼少期だけでなく、いつでも土台を築いていくことはできます。大人に対しても、SELは効果的。実際に企業研修などでの導入例もあります。人間的な土壌を耕すのは、いつからでも遅くはありません。

すでに自分が持っている可能性を味わってほしい

佐藤

今、具体的にどのようなプロジェクトが動いているのでしょう?

 

下向さん

例えば、大学から中退者を出さないための対策を一緒に考えてほしいというご依頼をいただいたことがあります。当初は、中退予備軍を集めて授業をするなどの案はどうかと相談されていたんです。しかし、「今困難な状況にある人」というラベル付けをして、集めたとしても学びは起きづらいですし、もっと多様な人が集う環境をつくり大学全体が豊かな学びの場になるように、私は違う提案をしました。

 

佐藤

どんなものでしょう?

 

 

下向さん

セルフリーダーシップを育むプロジェクトにしましょうと、提案したんです。セルフリーダーシップとは、自分が持っている感情、思考に深くつながり、どんな意志を持っているのかに気づくことで、主体性が生まれ、自分が望む未来へ自分自身が導くという考え方です。

このような発想とすることで、「大学への所属感がない子」や「苦しい状況に立たされている学生」だけでなく、「自分の生きていく道を見出したい」といった前向きな大学生たちも関心を持ちます。多様な人々が集う場とすることで、中退者を防ぐだけでなく、学生たち全体の意識も底上げできると考えたのです。

 

佐藤

なるほど。セルフリーダーシップという考え方ならば、どんな学生においても必要なことですもんね。

 

下向さん

はい。私たちは「学びプロダクション」として、顕在化しているニーズにそのまま答えるのではなく、潜在的なニーズを掘り起こし、より人がワクワクする教育アプローチを作っています。そのため、セルフリーダーシップの授業プログラムを作るという提案につながるのです。

私たちがその授業をしているところを担当教員の方に見ていただき、次に教員の方々にOJT的に学んでもらうというフローでビジョンを実現していきます。研修を重ねた後、最後は先生方だけで学生たちに教えるようになります。

 

下向さんが提供する教育プログラム。ステップを踏んで、SELを学校に定着させていく。

佐藤

イメージができました。しかし、こうした教育活動の効果検証は非常に難しいのではないでしょうか?

下向さん

その通りです。教育の効果はすぐに見えるものばかりではありません。翌日に芽が出る子もいれば、10年後にフッと学びを思い出して芽を出す子もいる。いつか実ると信じて、育んでいくことが教育に関わるすべての人の役割だと思います。

佐藤

なぜ、今日本においてSELが必要だと思うのですか?

下向さん

日本の若者の意識に関してのデータを見ると「自分自身に満足していない」「新しいことにチャレンジしたくない」「明るい未来を描けない」と回答する10代の子達が非常に多い。それは、自分の不完全さばかりに目がいき、自分がもうすでに持っている可能性や能力にあまり目が向いていないからだと感じています。自尊心などの人間的な土壌が育まれていないがゆえに、このような悲しい結果となってしまう。従来型の学力を伸ばす教育だけでは、自分の生まれ持っている可能性に気づき、高めていくことは難しいと思います。

【図】自分自身に満足している割合(45.1%)

佐藤

たしかに。今は、ほとんどの教科で5段階評価の5を取っていても、一つの「2」を見つけて、どうしてできないんだ?と言われちゃうような教育ですよね。欠点ばかり見てしまう。

 

下向さん

そうなんです。本来、誰しも不完全な存在で、完璧ではありません。今の教育は、その不完全さを否定して努力して埋めろといってしまう。でも、人が持ち合わせている「できないこと」をあげ始めればキリがありません。自分の生まれ持った可能性や美しさに気づかなければ、自己を肯定したり新たな意欲に向かっていったりすることなんてできません。だから、不完全さに嘆いたり、それを埋めようとするのではなく、今すでに持っている可能性や人間としての美くしさを味わってほしいのです。

下向さんが多くの人に伝えているメッセージ。

 

佐藤

それができれば、生きやすくなる人がたくさんいるはずです。SELは、自分の可能性や美しさに気付ける教育なのですね。

 

下向さん

そうなんです。学力評価は、人間をごく一部分の角度からしか見ていません。自分の全体性の魅力を知るためには、内面に深く深く入って、サーチすることが必要です。SELでは、その機会を提供します。

 

佐藤

大人のまなざしも変えていかなければいけないでしょうね。

 

下向さん

「あなたはここに穴があります」という粗探しばかりすれば、子どもたちは自信を失うに決まっていますよね。自分の今の完全性に目を向けさせる環境を整えたり、自分では担いきれない不完全な部分を誰かの完全さでサポートしたり、相互扶助の関係性を築くことを促すことが大人の役割になっていくと思います。

沖縄に拠点を置く意義

高校受験の段階で自分の心の違和感を大切にして、日本を飛び出した話に驚く。

 

佐藤

下向さんはどうやってSELにたどり着いたんですか?

 

下向さん

高校時代にまで遡ります。中学校までは日本の学校に通っていたのですが、高校はスイスの学校に行きました。そこで、世界の平和と調和の重要性を感じ、それを実現するためには人を育てることが欠かせないと気付いたんです。

 

佐藤

高校時代にそれを感じたんですか……?

 

下向さん

そうなんです。平和と調和を生むメカニズムを知る方法として、大学時代は社会起業家の人たちがどのように育ってきたかを紐解き、必要な要素を言語化しようと研究しました。

 

佐藤

なるほど。社会起業家になるような人たちの共通項は何かを把握して、その要素を教育に落とし込んでいこうと考えたんですね。

 

下向さん

はい。実際に、教育プログラムを作り、高校や大学に導入しました。でも、同じようなプログラムで学んでも、響く人とまったく響かない人がいる。その差とはいったいなんなんだろう?と立ち止まったんです。

佐藤

響くのはどんな人だったのですか?

 

下向さん

「土台がきちんとできている人」です。私たちのプログラムは、社会起業家が持っているスキルを教える教育となっていました。しかし、必要だったのは人間的な土台の部分だったんです。土台がない上にスキルだけを乗せていっても、うまくはいきませんでした。

 

佐藤

なるほど。そこで、SELの必要性にたどり着くんですね。

 

下向さん

正確にいうと、当時はまだSELという概念にはたどり着いていませんでしたが、非認知能力の重要性を確信して、日本の大学卒業後にアメリカのペンシルベニア大学の教育大学院に渡ったんです。

 

佐藤

今でこそ、日本でも非認知能力の重要性が言われるようになりましたが当時はほとんど知られていませんでしたよね。

 

下向さん

そうですね。ペンシルベニア大学の研究の中で、SELに触れ、「これだ!」と思ったんです。研究を経て、日本に戻り、オルタナティブスクールの小学校で教鞭をとりました。現場で探究活動などを中心にSELの実践をしました。その後、仕組みづくりに移りたいと思い、教育コンテンツを作る企業へ入社。そして、独立したんです。

佐藤

いつご自身の会社を立ち上げたんですか?

 

下向さん

2019年の春に独立して、株式会社roku youを立ち上げました。さらに、8月には一般社団法人SEL推進協会を設立しました。

 

佐藤

現在、下向さんは沖縄と東京の二拠点生活なですよね?

 

下向さん

そうですね。沖縄に拠点を置き、東京他全国に出張するような生活をしています。東京にも自宅があります。

 

佐藤

なぜ沖縄で創業したのでしょう?

 

下向さん

沖縄には、400年以上前にSELの考え方があったんです。そこに強い縁を感じ、沖縄の地で創業したいと思いました。

 

佐藤

400年以上前に……?どういうことでしょう?

 

下向さん

社名の「roku you」は沖縄の『六諭衍義』(りくゆえんぎ)から取りました。『六諭衍義』とは、程順則(ていじゅんそく)という教育係が400年以上前に中国に渡り、「ちむぐくる」という肝(腹)と心のあり方の学びを琉球に持ち帰った、その教えが書かれた書です。程順則は一般の人々も理解できるように、それを琉歌に落とし込んで広めていきました。

 

「自身の原点」として、『六諭衍義』の教えを書いた書籍を常に持ち歩く。

 

佐藤

つまり、400年以上前から沖縄には心に注目した教育があったということなんですね。

 

下向さん

そうなんです。しかも、『六諭衍義』を知った徳川吉宗がその重要性を認め、寺子屋の道徳の教科書をこれをベースに作ったんです。

 

佐藤

初めて知りました!沖縄には心の豊かさこそ重要だという概念が、400年以上前から存在していたんですね。

 

下向さん

そうなんです。程順則は名護の親方だったので名護では比較的知られているのですが、県内でもご存知の方は多くない。

 

佐藤

沖縄で開業していかがですか?

 

下向さん

本当に沖縄でよかったと思っています。沖縄では多様な人とつながれる。東京にも様々な人がいるけれど、その人たちとつながれるわけではないと感じます。東京のつながりは、同じ大学の人同士や同じ業界の人同士など、結構一元的ではないですか?

 

佐藤

たしかに、そうですね。

 

下向さん

沖縄は多様な人が混在していて、様々な居場所ができている。それらが私にインスピレーションを与えてくれます。東京は人は多いけれど、みんなそれぞれが違う層を生きているパラレルワールドのような感覚を持っています。

泡盛ガールとしてのライフワーク

泡盛の話を始めると途端に満面の笑顔。“泡盛愛”を感じました!

 

佐藤

続いて、泡盛ガールの活動を教えてください。

 

下向さん

ただただ、泡盛が好きなんですよね(笑)

 

佐藤

でしょうね(笑)どんな活動をしているんですか?

 

下向さん

泡盛の魅力を理解て、日常に泡盛のある生活をおくる人や泡盛を飲む人を増やすことが私のミッションです。イベントを企画したり、飲食店や酒造からイベント設計の仕事をいただいたりしています。また、泡盛を海外に持っていくので、テキストを英訳してほしいという依頼もありますね。

 

佐藤

なぜ下向さんに依頼が来るんだと思いますか?

 

下向さん

どっぷり”業界の人”というわけではないけれど、泡盛大好き、というポジションがいいんでしょうね。例えば、パッケージや商品名をつける開発のような仕事をしたことがあったんです。県外限定で泡盛をほとんど飲んだことない女性に飲んでほしいというオーダーで、私がコンセプトと商品名を考えたんです。そして、それを元にラベルのサンプルを作ってもらったら渋すぎるデザインだったんです(笑)

佐藤

お酒大好きなおじさんが似合う感じ?

 

下向さん

はい、まさに。「これじゃダメですよー!」と言って、「例えばこんなイメージではどうですか?」と作ってみたら好評だった。これまで泡盛業界にはない視点があるから、おもしろがっていただけているんだと思います。

 

佐藤

泡盛はどのくらいの頻度で飲んでいるんですか?

 

下向さん

毎日ですね。

 

佐藤

え!!!

毎日の泡盛を欠かさないと聞き、衝撃を受けるライター佐藤。

 

下向さん

我が家にはズラッと泡盛が並んでいて、長期熟成用のかめも置いていますから。沖縄にいるときは毎日飲みます!

 

佐藤

さすが、泡盛ガール!泡盛好きという意味でも、沖縄に縁があったんですね。

 

下向さん

そうなんです。泡盛は琉球王朝の歴史と切っても切れないものじゃないですか。泡盛は100年、200年と育んで飲む酒。自分が生きている間には飲まれないだろうものを作り、未来に託していく。現在SDGsなどと叫ばれるようになってきていますが、未来へのバトンを渡していくという意味で泡盛から学ぶことはすごく多いと思うんですよね。

 

佐藤

泡盛の奥深さを感じながら飲んでいるんですね。

 

下向さん

そうなんですよ!!

選択肢を持つことで未来を拓く

自分のしたいことに常に向き合い続けている下向さん。話しを聞いていると、私も勇気が湧いてくる。

 

佐藤

下向さんは、「自分のしたいこと」に正面から向き合って、ビジョンを実現してきているように思います。

 

下向さん

考えうる選択肢を並べて、それを片っ端から試してきました。アメリカの大学院で研究することも、学校現場で働いてみることも、企業で教材作りをしてみることも、すべて今の時点でどんな道があるかを考え尽くして決めてきました。

 

佐藤

「この仕事しかない」「この職場しかない」といった固定観念に囚われてはいなかったんですね。

 

下向さん

教育という一つのカテゴリでも、色々な道がある。「これしかない」なんてことはないですよ。仕事内容も働く場所も働き方も、自由です。

 

佐藤

なかなか自分がどんな選択肢を持っているかに気づけない人も多いように思います。

 

下向さん

そうですね。そういう方は、「どうせできないし」「無理に決まっている」などのブロックや条件を外してみるといいと思うんです。また、おもしろい選択をしている人に話しを聞くのもいいでしょう。「こんな選択をしている人がいる。じゃあ、自分はどんな選択ができるんだろう?」と思考を広げることができます。

 

佐藤

それでも選びたい道がないと感じる場合にはどうしたらいいんでしょう?

 

下向さん

自分で作りましょう!私は選択肢を全部試してみて違ったので、教育をクリエイティブする会社を起業しました。選択肢の中から選んでも、選択肢を作り出してもいい。ただし、自分で選ばないと納得感はありません。

 

佐藤

現状に「大満足」という方以外は、常に自分自身の持つ選択肢を考えていくことが人生を豊かに生きていくことにつながりそうですね。

 

下向さん

そうですね。とはいえ、満足している方の中にも自分で選択したから満足しているのではなくて、その場に適応して「満足だ」と思い込んでいるケースもあると思います。人間はある程度幸せに生きていくために、その場に適応する力を持っていますからね。すっかり適応してしまっている人には、「選択肢を持て」といっても届かないかもしれません。だから、少しでも「これでいいのかな?」と疑問を持っている段階の方には、適応力を発揮する前に、考えうる選択肢を挙げ切ることを試してほしいです。

 

佐藤

今日お話を聞き、下向さんは人間の可能性を信じて高めていくことに強い関心があるのだと感じました。

 

下向さん

そうですね。私は、その人の持っている可能性や美しさに触れた瞬間に喜びを感じるんです。「その人が一番輝く状態にしたい」という思いが、自分の根源的な欲求です。それを実現できる方法をこれからも追究し続けたいと思っています。

自分がどんな選択肢を持っているのか並べてみる。当たり前のことのようだけれど、私たちはなかなかそれをしようとはしません。「仕方ない」「こんなもんか」と、“折り合いをつける”という名の言い訳で、現状にジリジリと適応してしまいます。

さらにいうと、「自分が本当は何をしたいのか」、自分のことなのにわからなくなることも少なくないですよね。

下向さんのお話を伺っていると、「自分を生きる」重要性に気付かされます。下向さんの生き方も、SELの考え方も、自分自身の在り方に悩む多くの人の背中を押すものだと感じました。

SELは、これからどんどん日本に広がっていくでしょう。自分の不完全さを味わい、“自分自身を生き切れる”人が増えていくことで、社会はずっと豊かで幸せなものになっていく。今回は、そんなビジョンを見せていただいた取材でした。

 

<取材・文:佐藤智/撮影:蓮池ヒロ>