沖縄移住応援WEBマガジン「おきなわマグネット」

「職員の前向きな離職率を上げたい。」メジャーデビューした園長先生が語る「やりたいことをやって社会を良くする方法論」

長濱 良起

2019.11.18

糸満市阿波根にある「あはごん保育園」の園長・當銘孝文さん。3児のパパでもあり、大所帯スカバンド「南部マンゴーパーティーズ」のリーダーでもあります。愛称は「チョメ」≒トウメ=當銘。0歳児から5歳児まで約140人の子どもたちの感性を、40人の職員で育んでいます。

好きなことに自由に打ち込むことで人生訓を得てきたというチョメさんは、子どもたちを絶対に枠に押し込めまいとする保育観を持つ開放的な人。そんなチョメ先生が保育にかける想いとは。さらに、保育士の人材確保に課題が叫ばれる昨今でも「うちはもっと離職率を上げるべきだ」という真意とは。

かつてメジャーデビューまで果たしたボーカリストは、豪快な笑い声を響かせながら語ってくれました。

メジャーデビューしたバンドを辞め、保育の道へ。

【profile】とうめ・たかふみ 1983年生まれ。保育士。高校在学中に結成した「Skaしっぺ」を前身としたスカバンド「All Japan Goith」で2007年メジャーデビュー。2019年にあはごん保育園の園長に就任。作詞作曲を手がけた「アバサンゴの歌」は糸満市内の幼稚園や保育園で親しまれている。「保育で犯罪はなくせる」と断言するほど、幼少期教育に正面から向き合う。

長濱

どうして保育の道に進んだんですか?

チョメさん

自分が生まれた1983年に、保育士でもある母親があはごん保育園をスタートさせました。当時、園は今とは別の場所にあって、実家と併設していました。なので保育士になったのは自然のなりゆきでした。

長濱

バンドでも一回メジャーデビューしましたよね?All Japan Goithのボーカルで。

チョメさん

全国ツアーとかもしていましたよ。だけどその間中ずっと『保育士なりたい』って思っていました。なのでバンドを辞めました。

長濱

ボーカルが抜けるって、バンドとしては大きな出来事ですよね。メジャーデビューって、音楽やってる人が夢見ることなのに、なぜ?

チョメさん

売れることに興味がなかったと言うか。小学生の時から『戦争を止めたい』って悩んでる子でした。だからもともとは『音楽で世界平和を作りたい!』っていう動機だったんです。なのに全国ツアーしていたら月5万円の安月給でファストフードばっかり食べてアレルギーなって。本来描いていた自分と音楽の在り方とはかけ離れていて、とても嫌でした。『人を幸せにしたいと思って音楽やってるのに、オレが不幸せなってるじゃないか』って。そんな思いも抱きながらバンドを辞め、本来なりたかった保育士を目指しました。

長濱

現在は園長として日々奮闘されています。園長先生をやっていて楽しいことはなんですか?

チョメさん

いや、きついですよ。だって、ここでいくら子どもたちを育てても、小学校に入った途端に押さえ込む教育に変わってしまうので、無力感のようなものがあります。『枠から飛び出なさい』という方針で価値観を育みたくて。『こうあるべき』は極力削っています。

長濱

実際に、子どもたちにどうやって接しているか見せてもらっていいですか?

-教室へと移動

(大声でオペラ風に歌う園長先生)

 

長濱

なんでめちゃくちゃでっかい声でオペラみたいにして歌ってるんですか?

チョメさん

いや、こんな歌い方もあるよーって。本物を聴かせています笑

(整列しないで一人遊びに夢中になっている子を見て)

チョメさん

並んでない子がいても、注意する必要ないんですよ。むしろ、注意しない方がいい。『みんな並んでいるよー』って一応教えてあげる、ぐらいでいいんです。

-園庭に移動

チョメさん

ここのニス、塗りたてなんですよ。

長濱

逆に触りたくなりますよね。

チョメさん

そう!!

長濱

チョメさん

この『触りたい』って気持ち!こんなのを止めたらダメなんですよ。本当に危ないことをしたら止めますよ。例えばですけど爆発物に近づくとか。だけど普段の生活でめったにそんなことって無いじゃないですか。

 

(急に照れる園長)

 

長濱

押さえ込んだり詰め込んだりする教育の弊害として、どのようなものを感じていますか?

チョメさん

小学校に入ると均一的な枠の中にはめようとする教育になると感じています。テストで詰込んだ結果を計ったり、何かを数字で評価したり、成果主義に走ったり。我慢を覚える場所になっています。

長濱

なるほど。

チョメさん

学校教育で急に枠にカチっとはめられて、その後社会に放り出された瞬間『あとは人間性です』って言われる。『だったら人間性をしっかり育むべきだろう』って思って。

 

(「子どもたちをこんな小さい枠に閉じ込めても意味がない」と強調する當銘さん)

 

チョメさん

自分が小学校の時、誰よりも早く教科書の勉強を自分で終わらせて、作った時間でずっと好きなことしてたんですよ。授業中にこっそり絵を描いたり読書したり。で、先生が来たらそれを隠してやり過ごす。結局この時間こそが自分の中では『一番何もしていない時間』でした。運動会もそうですよ。運動会って、待ち時間が一番長いですからね!運動してないんですよ結局。

長濱

そうですね。笑 普通の学校の日の方が休み時間使って動いてますよね。

チョメさん

今役に立ってるスキルって、こうやって押さえ込まれながら覚えたものはほとんどないんですよ。好きだから、興味があるから、必要だから、って理由で身についたものばっかりです。ワードとかエクセルもそうですし、バンドしてる時にHP作るってなって、高校生でHTML(プログラミング言語)覚えたり、音楽制作ソフトの使い方覚えたり。

長濱

その人の自主性を尊重しているんですね。

チョメさん

何かを学ぶには『何のために』っていう根拠が必要だと思っています。根拠もなく『これはこうあるべきだから』ではなくて。だから、いっつも思うことがあるんです。

長濱

何ですか?

チョメさん

熱いスープの器あるじゃないですか?あれ、器の下持つように教わりますよね?

長濱

そうですね。他に持ち方ありますっけ?

チョメさん

いや、でもあれ、下持ったら手ぇ熱くないですか?

長濱

熱いですね。

チョメさん

だったら、本当はこの持ち方で良くないですか?

チョメさん

さすがに園児に『こうやって3本指で持ってみ?』っては言わないですけど、こっちの方が確実に合理的ではあるんですよ。『こうしないといけない』っていう枠組みではなく『何のためにこうしている』っていう考え方は重要だと思います。

「前向きな離職率を上げたい。」社会全体でのプラスを追求。

長濱

園長としてのモットーってありますか?

チョメさん

人材育成です。

長濱

というと?

チョメさん

職員のみなさんが『何をしたいか』を大切にしたいです。仕事で何をしたいのか、とか、別の仕事もやってみたいのか、とか。もし他の仕事がしたくなったら、挑戦してもらって、もしダメだったらまたここに帰って来ればいいじゃないですか。囲い込むことはしたくないです。

長濱

普通の企業だったら、あんまり人材が流出することって嫌がりそうですけどね。

チョメさん

挑戦してもしも戻ってきたとしても、園としてはメリットになります。パワーアップして帰って来てますし。

長濱

なかなか画期的な考え方ですね。

チョメさん

うちは離職率低いんですけど、次のステップとしては『前向きな離職率』を上げていきたいと思います。例えば、職員が『教授目指して勉強したい』って言うとしますよね。で、その人が素晴らしい論文書いて学生に教える立場になるとするじゃないですか。そしたら全体で言えば保育のレベルって上がるんですよ。

長濱

おぉ!たしかに言われてみれば!

チョメさん

ポジティブに挑戦していく人材を育てていきたいです。保育士出身という人がいろんな分野に飛び出していって、そこで『保育って大事なんだよ』って広めてくれることで、社会的にも保育の価値が上がっていくと考えています。

長濱

僕、子どもがいるわけでもないですし保育士やったことあるわけでもないんですけど、保育って奥深そうですよね。

チョメさん

僕は保育で犯罪がなくせると思っています。犯罪をしてしまった人間そのものを嫌うのではなく、罪を犯した人が、なぜ犯罪に走ったのかが気になります。この人が通ってた保育園の名前まで気になります。それぐらい、保育は重要です。『とはいっても犯罪全てはなくならないでしょう』と人は言うかもしれません。だけど、僕はなくせると思っています。ちゃんとデータベース化してプロファイリングして、法則を見つけ出せば絶対になくせると信じています。

仕事と生活は、一緒。

長濱

チョメさんにとって、お仕事って何ですか?

チョメさん

仕事は生活と一緒だと思います。この時間は仕事で、この瞬間からは仕事一切なしにして生活する、っていうの、なかなかないと思うんですよ。例えば生活の中で買い物に行って『あ、このコップ気に入ったから保育園で使いたいな』って思うじゃないですか。これって生活しながら結局仕事もしているんですよね。だから、仕事と生活は同じでいいんです。

長濱

線引きすると逆に苦しくなるということですか?

チョメさん

そうですね。今だと大体、65歳まで働いてその後定年でゆっくりするっていうモデルがありますよね?でも、365日ずっとゆっくりしたくない人もいるはずなんですよ。僕ならきっと無理です。でも今だとパソコンさえあれば仕事はできるので、指さえ動けば大丈夫じゃないですか?100歳まで働けるんですよ。逆に、ゆっくり生活したかったらゆっくり働けばいいのかなぁって思っています。『仕事はキツいもので、休みは楽しいもの』って思ってしまうと、仕事してる以上はゆっくりできないですよ。

「問題行動は起こさないんだけど、問題児扱いされてたと思う。浮いてたと言うか」と自らの高校生活を振り返ったチョメさん。聞くと「毎日部活もストリートライブもして、忙しい高校生だったから眠くて眠くて。学校では授業中も休み時間もずっと寝ていた。起きるのは机の上の1.5Lコカコーラを飲むときぐらい」

「好きなことを追い求めてきた自分」が今も昔も輝いているからこそ、他の人にも好きなことをやっていてほしいという想いがあるのかな、と感じました。

子どもが一人ままごとに夢中で、歌の時間に歌っていなくてもそれでいい。好きなんだから。
職員があはごん保育園を辞めて他の仕事をしてみてくれたらうれしい。だってその人がやりたいんだから。


根拠を感じられないまま何かを押し付けられた結果より、一人一人が楽しい顔を見せている方が、社会全体がきらめく。まるで世界平和を願って音楽を始めたあの頃の初期衝動そのままに、チョメさんは保育園でもステージ上でも「とにかくみんなが楽しく」との想いを掲げ続けています。もしかしたら悩みやストレスもあるかもしれません。楽しいことばかりではないかもしれません。だけどチョメさんがこちらに向ける表情は、やっぱりだいたい笑顔です。

<取材・文:長濱良起/撮影:蓮池ヒロ>