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沖縄県内の銭湯、通称「ゆーふるやー」1960年代に最盛期を迎えており、離島も合わせると300軒以上もあったそうです。高温多湿な気候がゆえ、風呂に浸からずにシャワーのみで済ませることが多い沖縄県民も、かつては憩いの場として、銭湯文化が根付いていました。
しかし、住居に浴室が備えつけられるのが一般的になるとだんだんと客足も遠のき、今では沖縄市安慶田にある「中乃湯」を残すのみです。
今回の記事では、そんな「中乃湯」の素晴らしさを伝えるために、私、ライターのナガハマと一緒にお風呂に入って、店主とおしゃべりをするバーチャル体験に誘いましょう!
中乃湯は1960年の創業、今年で58年目になります。
こちらが沖縄の銭湯文化を守り続けていると言っても過言では無い、中乃湯の仲村シゲさん。御年85歳です。創業したのは旦那さんですが、お亡くなりになった今は、一人で店を切り盛りしています。
「さんぴん茶?シークヮーサー?」と、飲みたいドリンクを訊きながら、すでに2本とも僕の手に握られていました。看板娘のシゲさん、初めて会ったとは思えないくらいの親近感!常連さんがシゲさんに会いに来ている理由も頷けます。
中乃湯バーチャル体験
暖簾をくぐって最初のポイントは、入湯のためのカウンター。本土の銭湯では男湯と女湯の間に番台があったりしますが、これが中乃湯流。
お孫さんから、去年の勤労感謝の日に贈られた感謝状が飾られており、オープニングからハートフルです。「ぬ」とあるのは、「お湯を抜いた」の「ぬ」で営業終了の意味です。
裏返されて出てきた「わ」の文字は「湯が沸いた」の「わ」で営業中という意味ですね。
さあ、男湯へと進みましょう。
どうですか、この懐かしい感じ!そのまま映画のセットで使われていそうな雰囲気です。沖縄の銭湯は、本土の銭湯と違い、脱衣所と浴場がひとつにつながっています!扉を開けた瞬間に丸出し。これはカルチャーショックでしょう。
本土の銭湯だと、戸の開け閉めの際に冬場は冷気が入って来ますが、沖縄はそこまで冬が寒くないので間仕切りの必要がなかったからだろう、という云われもあります。
中央にある浴槽は大人7〜8人が入ったらいっぱいになるくらいの広さ。真ん中に配置されているあたりが、裸の付き合いを促されますね。
カランの位置がやや高め、頭の高さでもない手元の高さでもない絶妙な位置です。
お湯と水を融合させるためのDIY精神にも注目。
女湯には、赤子を寝かせておくためのベットがあるので、子連れの方も安心して入浴できる心配りも。
先ほどの受付カウンターからはこういう風につながっています。
特別にボイラー室も覗かせてもらいました。
「燃料代が一番高く付くよ!冬場ではひと月10万円超えるさ〜」とシゲさん。少しでも燃料の節約をするために、船に使われている重油を使っているそうです。
水は井戸水を利用。「350m掘ったもんだから辞めたいけど辞められないさ〜。だから続けてるんだよ!」と投げやりに言い放つも、表情は笑っています。
入りたくなってきたので…
本土に行ったら、その土地の銭湯で風呂に入るという風情も風情な趣味を持つ筆者。せっかくここまで来ましたので、ジャブジャブすることにしました。さあ、一緒に入ろうぜ!
「さあ、僕は何番のロッカーに服を入れるでしょーか!?」
「正解は、4番でしたー。理由は一番近かったから、でしたー。」
いざ、浴場へGO!!
ここからは貴重なナガハマのヌードシーンが含まれます。
今回は特別に袋とじを開けて差し上げましょう!
ちょうど良い湯加減にするには、湯と水の調合バランスが大事になります。
髪を洗うというよりは、頭皮をマッサージすることを意識するようにしています。そうすることで、結果キューティクルも出来上がるという考え方です。
試行錯誤した結果、一番良い泡の流し方はこのような体勢だという解を導きました。
早い時間でまだお客さんが僕しかいないことを良いことに、少し甘えることにしました。
「シゲさーん、シゲさーん!!」
ごめんなさい、シゲさんに背中を流してもらえるなんて、良いご身分です。しかも、首元を揉みながら洗ってくれて非常にリラクゼーションなひとときでした。
(※通常、シゲさんはこのようなサービスは行っておりませんので、リクエストはご遠慮下さい。)
桶に溜めたお湯で背中の泡を流すときに…
こうなるのって、あるあるですよね。
しかし、この日の一番風呂ひとり占めは格別でした。お昼に行く銭湯も良いものですね。
シゲさんの一日
シゲさんの朝は早い。
前日に掃除を済ませておいたお風呂に、コンプレッサーで水をくみ上げるところから一日が始まります。そして、水をくみ上げている間に、換気や備品のセッティングなど店開けの準備を行います。
そして疲れを癒すために、一旦家に帰ってマッサージチェアに座ります。ここからが大変。中乃湯店主シゲさんである前に、主婦シゲさんでもあるので、朝食の準備や洗濯などの家事もこの時間に済ませるわけです。
午後2時、ボイラーで火を入れて営業スタート。店番から清掃、火の調節など一人でこなすため、営業中は場所を離れることなどできません。
一番大変なのが営業終了後。男湯・女湯の掃除は2〜3時間掛かります。ヒザを痛めているシゲさんにとって、この作業はかなりの重労働です。夜10時、やっとその日のお仕事が終わります。
─シゲさん、毎日お身体はつらくないですか?
働いていないと、自分の身体がなまってくるからね。風呂も磨きながら自分の健康も磨く(笑)人間動けるうちは動かないと
─大人370円って安いですよね?
燃料代も高くなって、儲けは無いよ〜。今は年金があるからまだやっていけるけど、もうほとんどボランティアみたいなもんさぁ
─それでも中乃湯を続けている理由は何ですか?
『おばぁ元気ね〜』って内地から家族で来てくれる人もいてね。『やめないでよ〜』って言われたら続けないといけないさ。憩いの場にもなってるから、お客さんに会えるのが私も嬉しいわけよ。逆にお風呂屋がないと私が生きていけないよ〜!これからも来てくれる人のために尽くしたい。お客さんが嬉しそうな顔で帰って行くのが楽しみよ
─跡継ぎはいるんですか?
息子が『自分が跡を継ぐよ』とは言ってくれてるんだけどね。仕事を定年してからじゃない?そのころ私は100歳になってるけどね!
─100歳まで頑張って下さいよ!
あんたは!簡単に言ってから(笑)頑張るよ〜!
沖縄の銭湯文化を守り続ける、中乃湯の仲村シゲさん。今も昔から変わらず、地域の交流の輪の中心にはシゲさんがいます。お風呂で疲れを癒して、お喋りして元気をもらえる場所、それが中乃湯。「日本最南端の銭湯」には、全国から銭湯ファンが足を運びます。
沖縄に移住したいけど、そうすると銭湯に入れなくなるのかなぁ〜と嘆いているあなた!もう、中乃湯の近くに住むと良いですよ。本島中部の中心エリアですし、利便性も高いですよ。