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【#残したい沖縄 エッセイVol.1】形を変えていきながら「そこに在る」それだけで良い。

古性のち

2019.05.27

「この時期晴れるなんて珍しい。これは、のんちゃん”持ってる”ね!」
それまでどんよりと空を覆っていた灰色の雲たちが一斉に、何かを思い出したように道を開け出し、その間から細く、強烈な光を放つ太陽が恐る恐る顔を出した。ザザン…ザザン…と一定のリズムを刻む波たちがその光を受け止め、徐々に、本来の姿へと戻っていく。

宮古ブルー。

今ある青の、どの色にも分類できず付けられたその特別な名前の意味を、私はこの日初めて「理解」した。

 

宮古島に行こうと決めたのは、冬もすっかり深くなった1月の終わりの頃。
しかもそれがただの旅ではなく「暮らす」の決意なのだと両親に告げると困ったような顔をして「だってあんた、行ったこともないのに?」と首を傾げた。

当時、私が事あるごとに繰り返していた「大人になったら沖縄の島に暮らしてみたい」は、決して沖縄への強烈な憧れや、親しみから出来上がったものではなかった。
「他人と違う夢を口にする自分が何だかカッコいい」程度の、いわば厨二病的なものが、もやもやと不思議な形に形成され、心の中に住み着いていただけだったのだ。

今思えば、学生を卒業し、ゆっくりと周りが「何者かになる準備」を始める中、自分だけが置いていかれている気持ちになり、多分相当に焦っていたのだろう。

だから嘘みたいな本当の話で、行き先はノートに手書きした、下手くそなあみだくじで決めた。「沖縄の島に移住した」と言えるのであれば本当に、どこでもよかった。

 

こうして22歳のわたしが訪れた宮古島は、下調べも何にもしなかったものだから、初日も、3日後も、カフェで住み込みのアルバイトを初めた1週間後も。どんより厚い雲が空を覆っていた。

「今日も雨なんですね」
”憧れの沖縄の島に移住しました。夢が叶って嬉しい”
ポチポチと文字を打ち込んでから、iPhoneで海を切り取る事を諦める。
曇っていてもわかる、だけれどその青さは、曇りの空に照らされていてもわかるほどで、それが更に私の気持ちを落ち込ませた。

「今の時期、晴れる日の方が少ないよ」
一瞬料理をする手を止め、オーナーから返事が返ってくる。

「こんなんじゃ、自慢できないなあ」
私は小さく呟いた。

 

その次の日も、その次の日も雨。特定の知り合いもなく、車が運転できないから、遠出をすることもできない。心細さからか、次第にこの、ちいさな島にきたことを後悔しだしたのは、早くも2週間目のことだった。

 

「のんちゃん、早く起きて」
早朝、ぐっすりと眠る私を叩き起こしたのはニコニコと笑みを顔中に浮かべたお店のオーナーだった。
パジャマのままぐいぐいと腕を引っ張られ表に出ると、うっすらと、西の空がピンクと水色に染まっていた。今日も相変わらず雲は多いけれど、もしかしたら、これは。

晴れる。
私は自分の頰がばっと紅葉するのを感じた。ぐしゃぐしゃの頭でカメラと自転車の鍵をひっ掴み、自転車にまたがる。いつも空を気にしながら、おそるおそる漕いでいるペダルを力の限り踏み込んだ。後ろからは、オーナーが原付バイクで追いかけてくる。
あたりが厚い雲で少しずつ、覆われていく。
お願い。

息を切らしながら漕ぐ自転車の上で、わたしは願う。
お願い。青い海に会いたい。この海が本当は一体どんな色をしているのか、知りたい。

そして願わくば。ここに来たことを「よかった」と思える、そんなキッカケを私は勝手にも望んでいた。

木々を抜け、まっすぐな坂を抜け、目に飛び込んできたのは、分厚い雲の間から、少しだけ顔を出した太陽の、キラキラした光を全面に受けた真っ青な海だった。

全身の毛がぞわりと逆立ち、その美しさに、私は思わず泣きそうになった。
青。でも青じゃない。水色?そんな色じゃない。今まで見てきた海が「青」ならば、この海は全くの別の色だ。

「こんな時期に晴れるなんて!」
後ろから、大声でオーナーの声がした。

「のんちゃんは、持ってるね!宮古島に、歓迎されてるんだ」

 

坂を下り自転車を降りると、私は波打ち際に駆け出した。
目の前に広がったその海は、シャッターなんかでどうにもこうにも、切り取れるようなものではなくて。「綺麗」だとか「美しい」だなんて言葉をぶつけても、到底敵いそうになかった。

「写真、撮らないの?またすぐに曇るから、撮っておいたほうがいい。友達に送ってあげなよ」
思いを見透かすように、オーナーが声をかける。

わたしはもう一度、iPhoneの画面に海を写し、やっぱり、シャッターを切るのを辞めた。

”憧れの沖縄の島に移住しました。夢が叶って嬉しい”
誰かにぶつけ「いいなあ」なんて言ってもらわなくても。

ああ、きてよかった。私はここにくるべきだった。と、この海が教えてくれた。世の中にこんなに美しいものがあったなんて。心は虹のかかった空のように、晴れやかで、艶やかで、暖かい気持ちに埋め尽くされていた。

 

わたしは曇ってしまうまで、いつまでも、いつまでも飽きることなく、宮古ブルーを見つめていた。あの瞬間を、今もずっと忘れていない。

近年宮古島はリゾート化が進み、どんどんと、新しい建物ができている。私が暮らしたちいさな島にも大きなリゾートホテルが立ち、もう自転車をかっ飛ばした橋からは、朝日も夕日も、見えなくなったらしいと風の噂で聞いた。
発展は素晴らしい。変わっていくのは、決して悪いことではない。

だけれど。
あの海を、見た人全ての心を震わせる、あの鮮やかな色を。
私は大切な友人に、親に、恋人に見せてあげたい。

あの宮古ブルーを決して、まだ幻にはしたくない。

 

2019年6月26日にRBCにて特別番組「おきなわMOSAIC」が生放送決定

おきなわマグネットが2019年4月から追いかけてきた「#残したい沖縄」プロジェクトではTwitter、Instagram両方で合わせて、5000以上のハッシュタグ「#残したい沖縄」を皆さんにご投稿いただきました。

それぞれ皆さんが残したいと思う沖縄の魅力をSNSで投稿していただいた内容を、2019年6月26日に放送される琉球放送(RBC)さんの特別番組「おきなわMOSAIC」にてご紹介いたします。

現代に生きる人々が、時代の変わり目にあって、何を大切にし、どのような沖縄を未来に残したいと願っているのか…

一人一人の思いをモザイクのように拾い集めて、新しい時代の「沖縄白書」を作るプロジェクト番組。新元号が発表される4月1日から投稿を募集し、6月26日のテレビ生放送に至るまで、琉球放送(RBC)では、テレビ・ラジオ・WEBで県内外、世界のウチナーンチュたちの「残したい沖縄」を紹介します!

ぜひお見逃しなく。

番組についてはこちらから