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2017年からスタートさせた「Safety Diving in Okinawa(以下、SDO)認証」は、沖縄県のダイビング事故ゼロを目指して構築され、定期的に心肺蘇生法や最新のAED使用法などの講習が行われています。
運営するのは、OMSB(おむすび)こと、一般財団法人沖縄マリンレジャーセイフティービューローです。沖縄県内での体験ダイビングをより円滑に楽しんでもらうために、海という自然界の危険性も同時に伝えることで、安全なダイビングツアーを提供できる仕組みの構築を目指して活動されています。
SDO認証制度普及の狙いとは何か。また、OMSBが目指すビジョンとは。OMSB事務局長の大迫英一さんと、恩納村のピンクマーリンクラブ内原靖夫さんにお話を聞きました。
【OMSB大迫英一さんにおうかがい】SDO認証制度のねらいと背景とは?
OMSB大迫さんの話によると、SDO認証には、4つの趣旨があるそうです。
- 1. 消費者保護を目的に沖縄独自の明確なお店選びの基準を作る。
- 2. 業界としてのコンプライアンスに基づくマネージメントを推進し、ダイビング産業の健全な発展と地域の活性化を目指す。
- 3. すべてのマリンレジャー従事者が、救命と救急法の最新の情報に基づく技量を有する。
- 4. 優良なサービスを提供できる高度人材の育成。
- 5. ダイビング業界から反社会的勢力の排除。
理解できるようでいて、複雑な定義にも聞こえますね…。そこで、一般の方にも伝わりやすく翻訳するため、大迫さんに詳しくお話をうかがってみました。
OMSB(おむすび)が実施しているSDO認証制度とはどういったものでしょうか?
沖縄のマリンレジャーを安心して安全に楽しんでいただくために、ダイビングのインストラクターとショップ向けに設けた認証制度なんです。
なぜこのような認証制度を設ける必要があったのでしょうか?
4年前に体験ダイビングで大きな事故がありました。水中で溺者が出てしまい、意識不明に…。本来であればインストラクターが適切に対処して、海上にあげて、心肺蘇生をすべきでした。しかし、インストラクターが浮力を確保して溺者を引き上げることができず、その方は亡くなってしまったんです。
痛ましい事故があったんですね……。
それがきっかけで、インストラクターの認証制度の必要性が叫ばれるようになりました。そして、2017年にSDO認証制度がスタートしたのです。
事故が起こった問題点はどこにあったとお考えですか?
ダイビングのインストラクターは、国家が認める資格ではないため、一度試験に合格すればいつまでも事業を続けられます。知識や技術のアップデートをしなくとも、生涯インストラクターであり続けられるのです。
日々の仕事の中で、知識や技術はアップデートされないのですか?
もちろん、ダイビング経験は豊富になっていきます。しかし、レスキューの知識などはその限りではなくて、インストラクター試験には、水面からの救助の訓練が盛り込まれています。
緊急時のトラブルには、とても大切な技術ですね。
そうなんですよ。インストラクターの下のアドバンスコースでは水中からの救助も学ぶ。インストラクターとして、アドバンスやレスキューの講習を1年に1回くらい実施していれば知識をリフレッシュしていけるとは思います。
でも、現状はそれができていないんですね?
はい。沖縄という土地柄上、ファンダイビングや体験ダイビングのガイドとして付くことがほとんど。他の県と比べて、講習を実施する機会が少ないからレスキューのノウハウが欠落してしまいがちなのです。
なるほど。免許更新制度など定期的なチェック機能もないんですね?
そうです。それどころか、県内にどれくらいのダイビングショップがあるかも、そもそも把握できていない状況です。
どういうことでしょう?
各地域には、恩納村ダイビング協会や本部町ダイビング協会といった、ショップが加盟するダイビング協会が設けられています。そこに所属しているショップであれば、実態を把握できます。しかし、協会に属しているのは県内の潜水事業者の1割程度だといわれている。実態数は、ブラックボックスなのです。
驚きました。なぜ、そうしたことが起こるのでしょう?
趣味の延長線上で、仕事にしてしまっている方が多いんですよね。
どういった事例があるのでしょうか。
例えば、夏だけSNSでお客さんを取って体験ダイビングのガイドをする。あるいは、ダイビングショップでバイトをしていたけれど、「一人でガイドをしたほうがお金になるかも」くらいの発想で独立してお客様を取り始める。そんなふうに気軽に事業をスタートさせてしまっているのです。
沖縄という土地柄上、人の出入りが激しそうですね。夏と冬とで違う事業をしている人も多そうです。
そうですね。気軽に事業をスタートさせた方々の多くは2、3年で辞めてしまう。無計画すぎる状態なんです。だからまずは、実際に潜水業をしている人数を把握し、そこから安心安全なダイビングができる仕組みを作っていく必要があるんです。
SDOの認証制度の構成や仕組みとは?
どのようにSDOの認証をしているのですか?
「プロダイバー認証」と「プロショップ認証」の2パターンに分けて、認証しています。プロダイバーでは、7つの必須条件をあげています。認証は各地域の協会においての基準に基づき可否を判断し、結果をOMSBへ連絡します。
関係資格 | SDO講習会参加 | 必須条件 | 各地域の協会が開催する一次救命処置と海洋レスキュートレーニングを受講 |
---|---|---|---|
年齢 | 必須条件 | 20歳以上であること | |
実務経験 | 必須条件 | 2年以上の実務経験と当該エリアでのガイド本数1,000本以上経験を有している | |
反社会的勢力排除 | 必須条件 | 反社会的勢力排除に関する誓約書に署名捺印を行う | |
DM以上 | 関係資格 | 沖縄県水上安全条例で認めるガイドダイバー以上の資格を有している | |
潜水士 | 法的資格 | 資格を有していること | |
その他 | 住民票 | 必須条件 | 該当地域住民として1音二条居住していること |
事故・事件 | 過去3年以内にあきらかな過失によるダイビングを含む事故・事件を起こしてない者 | ||
保険 | プロのガイドとして必要でかつ十分な賠償責任保険及び傷害保険に加入していること |
なるほど。SDO講習会ではどのようなことを行っているのですか?
講習会は地域の協会ごとに開催しています。心肺蘇生法や最新のAEDの使用法、それに各地域・海域に合ったレスキュー法を必修受講項目としています。
なるほど。毎年内容は見直すのですか?
レスキューの知識など、絶対に必要なものは毎年繰り返し学びます。それに加えて、新たな学びも組んでいます。昨年は弁護士をお呼びし、事故事例や事故が起こった時の判断についてなど、潜水業におけるリスクについて話をしてもらいました。
ショップを経営していく上で、非常に重要なことですね。
ダイビングは命のリスクを伴うスポーツですから、具体的な法的対処方法だけでなく、事業をする上で知っておくべき心構えも伝えられたらと思っています。
続いて、プロショップ認証はどのように行っているのですか。
申告を受けて、OMSB事務局が認証基準評価に沿い審査を行います。その後、沖縄県警察本部の協力を得て反社会勢力ではないことを確認し、認証マークを付与します。
項目 | 添付書類 | |
---|---|---|
必須条件 | 各地域の協会等の組織に属し独立した店舗であること | 不動産契約書の写し |
各種税金の申告を行なっている | 納税証明書の写し | |
従業員が1人でもいる場合に労働保険(労災保険・雇用保険)への加入 | 納付書の写し | |
高圧ガスの製造及び販売に関して適法であること | 許可書、届出書の写し | |
容器検査に関して適法であること(容器所有者のみ) | 管理台帳の写し | |
反社会的勢力排除に関する誓約書に署名捺印を | 誓約書提出 | |
規定 | 施設賠償責任保険の等 | 保険証書の写し |
安全対策優良海域レジャー提供業者もしくはOMSBの賛助会員であること。 | 証書の写し | |
スタッフ | 常勤インストラクターがいること。 | Cカードの写し |
プロフェッショナルダイバー1名以上在籍していること。 | 認証カードの写し | |
その他 | レンタル器材のオーバーホールは定期的に行われ、清潔に管理されていること。 | 管理台帳の写し |
自己所有のボートの場合、船舶に関する保険に入っていること。 | 保険証書の写し | |
酸素・AEDが使用可能な状態にあること。 |
素朴な疑問ですが、申請しても落ちることはあるのですか?
あります。特に多いのが、「納税証明書の写し」を提出せずに認証がおりないパターンです。事業をしていれば当たり前に準備できるはずなのですが、先ほどお伝えしたようにダイビングショップを趣味の一貫でやっているような方もいる。そうした方の中には、納税を証明できない方もいるようなんです。
なるほど。信頼できる事業者であることを担保するために、他に注意している点はありますか?
最近もうひとつ、「該当地域の住人として1年以上居住していること」という項目を設けました。沖縄のこの海で、持続可能な事業をし続けるという意識を持っている方であることが重要であると考えたからです。
組織としての安全性を担保できる仕組みを、より整えたのですね。
ダイビングショップからの「現場の声」をうかがった
ここから実際にダイビングショップの現場の声をうかがうべく、恩納村のピンクマーリンクラブ・内原靖夫さんにお話を聞きました
ダイビングはリスクが伴うスポーツでもある
ガイドをする際に注意していることを教えてください。
ダイビングは自己管理が必要なスポーツです。集まっていただいた時には必ず体調確認をしますし、現在の状況で潜り続けられるかを細かくチェックします。広く楽しんでいただきたいとは思っていますが、自己管理ができない人には難しいスポーツであることはきちんと認識していただかなければいけません。
ダイビングショップだけでなく、消費者もリスクを理解した上で臨まないといけませんね。
そうなんですよね。あとは、自然の影響も加味しなければいけません。恩納村は、漁師さんの船に乗り沖に出てダイビングをすることが多くて、漁師さんが「今日は船を出せる」と判断すれば、決行します。
漁師さん自身の体験から導き出された長年の勘、でしょうか?
勘というよりは、先を読む力、ロジックに近いですね。僕らのショップでは船を保有していますが、風速5mを越えるとキャンセルするという判断をしています。自然の状況を見て、随時慎重に判断していかなければいけないスポーツなんです。
その海をよく知っている人じゃなければ、判断を間違えてしまいそうですね。
そうなんです。他にも、干潮でインリーフならいけるけれどこの風だと無理だなとか、今の時期は北風が吹くからこの場所では難しいなといったジャッチが必要。
現場での慎重な判断が、安全性にも繋がっていくと?
ええ。当たり前ですが、ダイビングの技術だけでなく、ガイドとして潜る海の知識も必要なんです。だからこそ、その場所で根を下ろして海と付き合い続けていかなければいけません。
SDOに関する現在の活動とは!?恩納村ダイビング協会の一員として対応していること
SDOに関する活動はどのように行っていますか?
私は恩納村ダイビング協会の一員です。協会加盟の事業者に対して、SDO認証を受けるために我々が主催するレスキュートレーニングを受けるよう促しています。
具体的には、どれくらいの頻度ですか?
OMSBからは、年1回の講習会を設けるようにいわれていて、恩納村では春先と年末の年2回は、受講するタイミングを設けています。どちらか必ず受けることを義務化しているのです。
必ず受講できるように2度の機会を設けているのですね。
そうです。非常に残念なことですが、沖縄本島で一番事故が多いのは、ここ恩納村の真栄田岬なんです。「青の洞窟」と呼ばれ始めて以降、観光客が急激に増え、それに伴ってダイビングガイドも増加しました。
青の洞窟…。確かに有名ですね。
足を運んでくださる方が増えたのは喜ばしいことなのですが、協会として今度は安全安心を担保するためにどうしたらいいかを考えていかなければいけません。
沖縄のダイビングショップに関する、現在の課題とその対策
沖縄県のマリンスポーツ全体で事故への意識を高めていく必要がありそうですね。
そうですね。例えば、ライフジャケットをつけないでシュノーケリングをした結果、溺れたり流されたりする事故は絶えません。
シュノーケリングでの事故…。
沖縄の海は素晴らしい。その素晴らしさを県外の方々にも十分知っていただけた今、今後は危険性も十分に周知していかなければいけない。リスクも知った上で、楽しんでもらいたいと思っています。
ショップとしてはどういった点に力を注いでいきたいですか?
お客様に楽しんでもらい、またリピートしてもらえるような店づくりをしていきたいですね。
スタッフさんの技術や対応がいいと、リピートしたくなりますね。笑
でもね。お客様が増えていくと、どうしても流れ作業的になりがちで、実際にそういったショップもあるんですよね。1回だけ来てもらえばいいのではなく、持続的に通い続けてもらえるような配慮をして、沖縄の観光産業の一翼を担っているという意識を持っていきたいです。
ダイビング協会としてはいかがでしょう?
協会としては、すべての事業者に協会に所属いただき、安全性や信頼性を担保できるようにしていきたいと思っています。講習では、スキル面だけでなく、事業者の意識改革も促せるようなものを実施していきたいですね。
ふたたびOMSB大迫英一さんに伺う、沖縄へ体験ダイビングをしにくる方へのメッセージ
沖縄で体験ダイビングをしたいと思った際に、消費者が気をつけるべきこととはどんなことでしょう?
SDO認証マークがあるか否かは、基準となるでしょうね。ぜひ、このマークを目印にしてください。
ネットで検索してホームページにこのマークを掲げているショップは、安全性が担保されていると判断できるわけですね。
そうです。ゆくゆくは、SDOホームページに信頼できるダイビングショップの一覧をまとめて、そこから消費者が申し込みをできるようにしたいと考えています。
それはいいですね!ガイドブックでもSDOマークを取得しているショップが掲載されるようになっていけば、消費者側も料金の安さだけで選ぶようなことは減っていくように思います。
「格安」といった言葉だけに惑わされずに、地道に実績を積んで活動しているダイビングショップとか、スタッフの技術にも光を当てていきたいですね。
今後、SDOが目指していくゴールとは?
SDOが目指すゴールとは、一体なんでしょうか。
沖縄県内での水難事故をゼロにしていきたいんです。実は今年、水難事故が増加してしまい、昨年1年分の事故が、今年8月の時点で既に超えてしまったんですよ。
沖縄での水難事故が増加していると?
危機感はありますよね。潜水業だけの問題ではありませんが、「沖縄で事故があった」という事実が広まればマリンスポーツ全体がマイナスイメージになってしまいます。
そうですね。SDOの制度を皮切りにしてマリンスポーツ全体の意識を上げていけるといいですね。
まさにその通りです。消費者には、これまでと変わらず、間口を広げて気軽に楽しんでもらえるものであってほしい。
それがダイビングの本来の目的ですよね。
そうなんですよね。しかし、ショップに関しては潜水業だけでなく、カヤックやSAP、シュノーケリングなどすべてをひっくるめて安全性を保っていけるような形にしていけるといいですね。
行政も含めて取り組んでいくという方向性も出ているのでしょうか。
少しずつですが、行政と連携した動きが出始めています。例えば、石垣島では今年の夏に6件ほど相次いで事故が起きてしまったんです。どれも軽い怪我ですみましたが、新聞にも取り上げられて大きな問題になりました。
見直しが必要だということが明るみになったのですね。
しかも事故を起こしたショップはどれも八重山ダイビング協会には入会していなかったんです。そこで、市が動き、全てのショップに協会へ入ることを促し、事故防止の意識を高めたり、レスキューの講習をしたりすることを徹底したのです。
行政が動くことで取り組み速度は上がっていきますよね。
その通りです。石垣島に200件ほどのショップがあることも今回の一件でやっと見える化したんです。
石垣島だけで200件も……!
そうなんです。さらにこれからまた増えていくでしょうね。
石垣島では事故が契機になって整備が進みましたが、県内の他の地域では石垣島のこの事例から学び、先手を打って制度徹底が充実するといいですよね。
はい。行政と連携することで、協会への加盟が強化され、SDOを活用した安全性の徹底が促されればと考えています。また、協会への加盟は事故防止の観点だけでなく、自然環境の保護にもつながります。
どういうことでしょう?
これまでは、協会の中で「今年はサンゴ保護のために、このポイントには潜らないようにしよう」と決めても、協会外の人にはきちんと伝わり切っていませんでした。「入らないようにしているらしいよ」と噂レベルで広がっていたにすぎなかったんです。
それでは、沖縄の海を守り切れないかもしれませんね。
そうなんですよ。海と人との関係が持続可能なものになるように、制度の拡充はとても重要だと考えています。
安全なダイビング事業を実現していくために、そして、人と海との良好な関係性を築いていくために、SDOの広がりが望まれますね。今日はありがとうございました。
私自身も数年前にダイビングのオープンウォーターの資格を取り、趣味でファンダイビングをする身。沖縄の海は美しく、そこでのレジャーは日常を忘れる素晴らしい時間です。
今回、多くの人に愛されている沖縄のダイビングが安全性の面で課題を抱えているということをはじめて知りました。心からダイビングを楽しめるように、SDO認証マークの信頼性をさまざまな方に伝えていきたいと思いました。
(編集/OKINAWA GRIT みやねえ)