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「クリエイトしやすい場を作るのが私の役目」〜舞台に火を灯す制作の世界〜 TEAM SPOT JUMBLE 喜舎場 梓さん

水澤 陽介

2017.06.14

「芸術は爆発だ!」

なんて叫ばれてから、はや数十年。街のシンボルと呼ばれた小劇場やミニシアターはなくなり、歓楽街の光に照らされたお土産品が、「これが、沖縄伝統です」と語りかけます。

沖縄の芸術を考えたとき、みなさんはどんなものをイメージしますか。2010年に、ユネスコ無形文化遺産として指定された「組踊」という人もいれば、こうしたシーサーも旅行者にとって芸術かもしれません。

「芸術とは、独自の価値を創造しようとする人間固有の活動」と辞書には定義されていて、現代や伝統でわけられるものでしょうか。

演劇の世界もそう。

沖縄で現代演劇というジャンルに挑み、エンターテイメント性を追求する「TEAM SPOT JUMBLE(以後、TSJ)」も、独特の世界観を持つ劇団の1つ。

津波 信一さんが主宰を務めるTSJは、アクションとダンス、コメディなど、個性的なパフォーマンスが魅力的です。表情ひとつまで計算された芝居の数々に、観客は息を飲むほど。

今回は、裏方として劇団を支える「制作」の仕事にスポットライトを当てていきます。「私たちの芝居は、娯楽でありたい。物語に没頭してもらい、楽しい時間をいっしょに共有できれば」と語ってくれたのは、マネージャーの喜舎場 梓さんです。

彼女は、どうして演劇の道で生きていこうと思ったのか、これからの未来をどう見据えているのか、教えてもらいました。

(撮影:G-KEN)

「演劇以外の仕事はしない」 腹を括った20代の決意

喜舎場梓さん
沖縄県立芸術大学卒業後、演劇の道を進む。劇団58号線でのアルバイト、北島角子さん出演の「トートーメー万歳」の舞台制作にはフリーランスとして関わった経験を持つ。2006年からTSJにマネージャーと制作を兼任。現在、9月の公演に向けて準備の真っ最中とのこと。
水澤水澤

演劇の方は、ちょっと特殊なイメージがありました。でも、喜舎場さんは、すごく丁寧なかたで安心です。

喜舎場喜舎場

ありがとうございます(笑)

水澤水澤

芸大から演劇の道を進むのは、珍しいことだと思いますが、当時の心境を教えてください。

喜舎場喜舎場

もともと、私はデザイン科に通いながらも、演劇が好きでした。でも、周りには演劇業界に就職する方が少なかったですね。卒業制作をどうしようかと迷っていて、「演劇をやりたいんです。だから、卒制として演劇を作らせてください」と教授にお願いしたんです。

水澤水澤

ストレート 笑。それで、どうなりましたか。

喜舎場喜舎場

演劇の宣伝広告やチケット・配布用リーフレットをデザインしていく様子を見ていた教授は面白がってくれました。今でも、「劇団のデザイナー」だといって私の仕事を応援してくれています。

水澤水澤

前例がないことでも、やってみるとうまくいくことがありますよね。

現在の業務は、公演の企画会議からはじまり、公演までのスケジュール管理、チケット販売・管理など、演者が気持ちよく芝居に取り組めるよう、準備しています。
喜舎場喜舎場

ただ、20代前半は、制作のプロとして理想と業務をうまくこなせない現実のギャップに苦しみましたが、「演劇以外の仕事はしない」と決めていたので。腹をくくることって本当に大事なんです。

任意団体から株式会社になることは、これからの制作を続けていく人たちへのエンジン

水澤水澤

そこから、どうしてTSJに入られたのですか。

喜舎場喜舎場

2006年6月にTSJは旗揚げしていましたが、制作メンバーがしばらくいなくて。人手不足もあり、「マネージャー兼制作、あと経理もお願い!」みたいなはじまりでした。

水澤水澤

つらい(笑)。喜舎場さんにとって転機になったことはありますか。

喜舎場喜舎場

2011年に、TSJが任意団体から株式会社に変わったことです。当時、スタッフが私しかいないのに「株式にしましょう!」と代表の津波に相談して。

演劇は好き。でも、社会保障がないから続けられない」沖縄だけではなく、日本中の制作者は同じような悩みを持っています。

「年を重なるごとに、『これからも演劇で暮らしていけるのか』と誰にでも不安はある」と喜舎場さんは教えてくれます。
喜舎場喜舎場

津波もこれからのことを真剣に考えてくれて、2013年に株式会社にしてくれました。もう、何としてもTSJを潰さないように、と心から誓いましたね。

水澤水澤

アルバイト・フリーランス・会社員と経験してきて、「株式会社」にしたことで良かった点はありますか。

現代演劇において、社会的信用の低さをどうやってカバーするのか、課題の1つです。
喜舎場喜舎場

周りから信用してもらえるようになったことです。私たちは、学校で演劇ワークショップなどを行っていますが、法人に変わったことで、演劇をやっているプロの団体としての信頼していただけるようになりました。

水澤水澤

「一度決めたら、最後までやり通すぞ!」喜舎場さんから覚悟をひしひし感じますが、そのなかで苦しかったことはありますか。

喜舎場喜舎場

どの仕事も、誰に教わったわけでもなく続けていたので、「私のやっていることって、本当に制作なのか?」という不安がありました。

水澤水澤

誰かが答えを提示してくれる仕事ではないから、もがいていると。ライターとして僕も、その気持ちわかります。

「東京と沖縄でも変わらない」 制作の本質を見つけたアーツマネジメント研修

水澤水澤

喜舎場さんにとって、自信を持って「これが、制作です」といえたのはいつですか。

喜舎場喜舎場

制作を学びに、東京の演劇研修に参加できたときです。2014年に、沖縄県主催で日本芸能実演家団体協議会(以後、芸団協)が行なっている「アーツマネジメント研修」の応募を見かけまして。

喜舎場喜舎場

いつもは、公演などでスケジュールもパンパンでしたが、奇跡的に時間が空いて。仕事に対してどこか自信を持てずにいたから、思い切って「今の仕事を続けながら、この研修に行かせてください。帰ってきたら、劇団の売り上げを2倍にします!」と津波に交渉しました。

水澤水澤

強気ですね!で、どうなりましたか。

喜舎場喜舎場

いい機会だからと、快く送り出してくれました。でも、同年度の最終事業報告のとき、「えっと、2倍だったよね」って。ちゃんと覚えていまして…(笑)

水澤水澤

お二人、仲の良さがいいですね! 実際に、東京での研修はどうでしたか。

喜舎場喜舎場

私は、東京にある青年劇場にお世話になりました。青年劇場とは、今年で創業53年目を迎える老舗劇団で、劇団員と制作などあわせて約100名。比べて、TSJは10名だったから、10倍の世界に飛び込みました。

研修に入った日から2ヶ月後に劇団のアトリエでの公演(客席数90)を控えていました。脚本家から送られてくる原稿を台本の様式に仕上げたり、次回に予定している公演の仮チラシを作成したりと、研修中に関われる仕事がたくさん目の前に転がっていたので、すぐ実務に入れました。

水澤水澤

制作として、自信がついた、と。

研修を終えて送別会での一幕。「すごく可愛がってもらったし、よく飲みにも誘っていただいて。楽しかった思い出しかないです」と当時の写真をみながら、照れくさそうに喜舎場さんは笑います。
喜舎場喜舎場

自分の仕事のやり方は、東京でも通用することを知ることができました。自ら仕事を見つけて、提案して、信頼を得ていくこと。代表の福島さんから、制作者としての資質を褒められたことが自信につながりました。

水澤水澤

制作の資質とは、どういうものですか。

喜舎場喜舎場

私が考えるに、自分で仕事を見つけて、提案出来るかどうかです。「仕事は提案すること。指示されることを待つだけなら、自分じゃなくてもいい」と信条として思っていて。結果的に、青年劇場の皆さんにも信用してもらえて、研修が終わった後もアドバイスをいただいたりしています。

青年劇団から喜舎場さんへの寄せ書きには「また、会いましょう」という言葉が並びます。
喜舎場喜舎場

2016年には、TSJの東京初公演として「SELECT!」を行いましたが、青年劇場、芸団協のみなさんにご相談に乗ってもらえて、大成功でした。

沖縄の特性を生かすために「劇団の枠を超えていく」

水澤水澤

正直、東京での研修をふまえて、沖縄の芸術で物足りなさを感じませんか。

喜舎場喜舎場

私がいえる立場なのかわかりませんが、制作のプロフェッショナルが少ないとは思います。

公演前は、演者がメイクをするための時間配分、リハーサルまでの動き方も、喜舎場さんの腕の見せ所です。
水澤水澤

それはなぜですか。

喜舎場喜舎場

劇団によっては、興行収入だけではやっていけない。スタッフを雇うだけの資金はどうするの、で止まっちゃいます。とにかく、制作に対して理解度が低いですね。よくありがちなのは、舞台の受付スタッフを友達や家族にお願いすること。プロとして公演するなら、制作のプロが入るべきです。

水澤水澤

そういった環境に対して、足りないものはなんですか。

喜舎場喜舎場

制作のプロとして、下の子たちを育てていくためのプロセスと管理体制。そのためには、資金調達も必要です。制作者も実演家や団体も共に、努力して基盤を築かなくてはなりません。これは、TSJで一緒に働いてもらえる制作者を探す、私自身の課題でもあります。

水澤水澤

もっと多くの方が演劇を観に行かないと、何も変わらないですよね。

喜舎場喜舎場

例えば、福岡での公演なら、大分や佐賀の方でも観にいけるじゃないですか。沖縄だと、県と県を跨いでくることはほとんどないし、それを沖縄の特性だと思って付き合うしかないですね。県内に住む方に向けて、ダイレクトに演劇を観ていただけるよう、呼びかけ続けるしかないと思います。

水澤水澤

そんなに大きな壁、どのように立ち向かえばいいですか。

劇団員の活躍は、演劇にとどまらず、ラジオ、テレビといったメディアからワークショップなど幅が広い。一人ひとりの活動が、これからの演劇業界を支えます。
喜舎場喜舎場

劇団という、枠を超えて活動することに挑戦しています。2015年から「ワークショップファシリテーター養成講座」を開催していて、演劇の可能性はまだまだあると感じています。

水澤水澤

演劇とファシリテーター?

喜舎場喜舎場

演劇では、ときに怒ったり、喜んだり。喜怒哀楽を表現しながら演技するじゃないですか。人と人が軋轢を起こすシーンも。

それらのシーンを「疑似体験」しながら、コミュニケーションについて考えるワークショップを行っています。参加者が、自由に発言したり、創作しやすいように促すのがファシリテーターです。ワークショップファシリテーター養成講座を通して、そういった体験を学んでもらっています。

水澤水澤

ファシリテーターは、新しい職能ではありますが、どんな業界が興味を持っていますか。

喜舎場喜舎場

福祉関係や教育関係が多いかな。あと、子育て中のお母さんにも参加してほしい。母親に対して、「子どもは、褒めて育てましょう」と子育てのアドバイスをくれる方がいても、行動に移すのは難しい。感情的になることもありますし、必ずしも答えは一つではないので、プログラムを通して一緒に学べたらと思います。

「クリエイトしやすい場を作る」観客との“楽しい”を共有するために

水澤水澤

芸術の内側にいる喜舎場さんからみて、「沖縄芸術」はどのようにしたら全国にも負けないと思いますか。

喜舎場喜舎場

創作されている作品は、全国レベルでぜんぜん負けていません。でも、県内にさえフューチャーされていないと感じていて、それが何よりももどかしい。そういった意味では、PRや発信できるだけの組織基盤を強くしていかないとは思います。

水澤水澤

組織を支える上で、制作の役割がこれから重要になりますね。

出演者のメイクも行う喜舎場さん。ひとりで頑張るではない、チームで頑張ることを意識している、という。
喜舎場喜舎場

はい。どこの地域でも流派や劇団があって、ある意味トップが有名であればあるほど、1代で潰れてしまう可能性も。しっかりと、継続された組織づくりを考えたときに、分業制もそうだし、制作者のような基盤を支える人を配置しておかないと、舞台の創作性は失われていくと思います。

水澤水澤

改めて、喜舎場さんが思う「制作」の役割とは?

喜舎場喜舎場

制作とは、道筋を決める仕事だと思います。劇団も、ものづくりも、しっかり道標を付けてあげないとすぐに目標を失いますし、クオリティも下がってしまう。

クリエイトしやすい場所を作るのが制作の役割だと思います。稽古場所の手配も、スケジュール管理も、スポンサー探しも、チケット販売管理も、すべては観客の皆様に“楽しい”と思ってほしいから。これからも、TSJのメンバーとして、みんなをサポートしていきたいですね。

沖縄演劇の大衆化に向けて、これからもTSJは走り続けます。

TSJの芝居を見て、“楽しい”と思えたら、演者の後ろには奮闘する制作者がいることを思い出してください。何十人も関わる演劇では、取りまとめる制作の意味合いは大きいといえます。

こうした、沖縄県内で文化芸術に関わる人材を育てるべく、アーツマネジメント研修に参加したい方を募集しています。現在県内で学べる講座も開催中、7月28日は喜舎場さんもゲスト講師となります。詳しくは、下記からご覧ください。

■アーツマネジメント研修、講座について詳しくは以下をご覧ください。
研修応募締切:6月20日(火)/講座は随時申し込み受付中。公式サイト:
http://www.geidankyo.or.jp/okinawa/wp/

■TEAM SPOT JUMBLEただいま、マネージャーと制作を募集中。9月にも公演予定。詳しくは以下をご覧ください。

公式サイト:
http://www.spot-jumble.com