「編集は愛だ!独自視点と個性的なライティングが大事」ー 沖縄のフリー編集者セソコマサユキ × DEEokinawa本田義統の対談インタビュー【前編】
2017.05.02
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沖縄在住フリーライターのmiya-nee(みやねえ)です。普段、ライティングや編集をしていると、読者に委ねられる文章の読みやすさや面白さをどう表現しようかと、たまに迷宮に入り込むことがあります。
そんな時は、自分の中でもがいて、あがいて。明確な正解がなく、Web記事ならば、公開するまでどんな反響があるのか、いい記事に仕上がっているのか、フタを開けてみるまでは一切わからないのです。
そこで、自分の疑問を解決するべく、沖縄でライティングや編集などをしているおふたりにお話を伺ってきました。
優しさが溢れる写真と雑誌のような独自の世界観で沖縄情報を執筆・編集しているセソコマサユキさん。片や、Webを駆使しながら、おもしろ視点で深掘りした沖縄のローカル情報を発信しているDEEokinawaの本田義統さん。
表面的な見え方は違えど、おふたりとも独自の視点で深く堀り下げた沖縄情報をオリジナルの記事を発信しています。
今回は、沖縄のフリー編集者セソコマサユキさん×DEEokinawaの本田義統さんのおふたりにさまざまな視点で語っていただく対談インタビューです。
前編では、「沖縄情報をライティング・編集・発信すること」について。後編では、「フリーランスとして沖縄で働くこと」をテーマにお届けします。
セソコマサユキさんのプロフィール
沖縄在住の編集者・ライター。東京で紙媒体の編集、イベントの企画・運営などを手がけたのち、2012年、独立を機に沖縄に移住。さまざまな媒体での編集、ライティング、撮影を通して独自の目線で沖縄の魅力を発信している。0歳と3歳の男の子の父でもある。観光情報サイト「沖縄CLIP」編集長。著書に『あたらしい沖縄旅行』『あたらしい離島旅行』『あたらしい北海道旅行』(WAVE出版刊)、「あたらしい移住のカタチ」(マイナビ出版)、企画・制作に「みんなの沖縄」(主婦の友社)がある。
本田義統さんのプロフィール
「知れば知るほどラビリンス」をテーマに、沖縄のローカル情報を独自の視点と切り口で発信する沖縄情報ポータルサイト「DEEokinawa」を更新している。本業は、WebディレクションやWeb制作など。新潟県出身で、1998年に琉球大学法文学部人間科学科に入学したのをキッカケにそのまま沖縄に住み着く。現在は、2歳の息子さんがいる。
やって来たのは、那覇市首里赤田町にあるカフェ「CONTE(コント)」。
実はセソコさん、本田さんともに東京のCINRA.Incが運営するWebメディア「HereNow」のキュレーターをやっており、私自身も執筆・撮影でジョインしています。
ならば!せっかくの機会なのでと、同じく「HereNow」のキュレーターでもある川口美保さんご夫婦が営むカフェ「CONTE」をお借りして、対談インタビューの取材をできないだろうか!?
「大丈夫ですよ」と川口さん。ありがたい、ありがたい。そこでご協力をいただき、首里のカフェ「CONTE」さんに集合してみました。
窓から差し込む柔らかい日差しに洗練されたインテリア。席の距離感も居心地よく、まさに今回の撮影場所に相応しすぎるカフェ。
いい。めちゃくちゃいい。CONTEさん、最高だぞ……
真逆の発想「趣味」と「編集」ーパラレルワーク、その軸にあるものー
この日が初対面だという、セソコマサユキさんと本田義統さん。
最初に、おふたりの現在のお仕事や活動について教えてください。
僕は、『DEEokinawa』というWebメディアをやっていて、平日は毎日記事を更新しています。2010年からスタートして、気付いたら随分と年月が経ってたという。笑
平日は毎日記事を更新する。これ何気にすごいと思うのですが、記事をアップできなかった日もあるんですか?
今まで1本も記事を落としたことはなくて、何とか継続できてますね。
それはすごい。メディアで生計を立ててるんですか。
いえ、収益は多少あるんですが、人が生活していけるレベルではなくて。基本的にはメディアを運営しているというより、趣味でやってます。笑
ははは。そのモチベーションって、どこから来てるんですかね。
何なんでしょうかね(笑)。最初は志があった……あったような気も。やるなら毎日更新するほうがいいよねと。何だかよくわからない義務感というか(笑)。その後は、メンバー間で監視する感じで、今日はお前記事出すよね?みたいな。今は習慣化してるんでしょうね。
すごいなあ。ということは本業は何をやってるんですか。
本業では、WebディレクターやWeb制作をしてるんです。
ああ、そうなんですね。
セソコさんは、本やWebに関わらず、執筆や編集をしていますよね。あとイベントの企画やディレクションもしているなど。
基本的には編集とライティングですね。主に記事を作る仕事をしています。それが雑誌やWebメディアだったり、自分の著書であったり。沖縄セルラーさんのWebメディア「沖縄CLIP」の編集長もさせてもらっていて、その中でWebディレクションや編集業務もしています。あと、イベント関係のコーディネートやディレクションなどですね。
愛知県で開催するイベント「森、道、市場」にも参加されてるんですよね。セソコさんのFacebookで拝見しました。
ははは、ありがとうございます。次は2017年5月開催で、沖縄から10組以上のカフェや作り手の方に参加してもらいます。内容は未定ですがこの夏に開催する東武百貨店の「沖縄展」にも関わらせてもらう予定です。
すごい。仕事の範囲が幅広いですね。
編集という仕事を通して、本やWebやイベントを問わず、出口は何でもいいので伝わりやすいカタチで表現できたらいいなと思っていて。
編集の枠から枝分かれして、さまざまな仕事にトライしてるんですね。
僕の仕事は全てが編集だと思っていて、それを実行するためのスキルとしてライティングや写真撮影を行っているというか、自分の武器として持っている。基本的にはトータルで編集をしている感じですね。
サイトも作られていたりするんですよね?
僕自身は、デザインやコーディングはしてないので、全体のディレクション、つまり編集ですね。
おふたりとも、パラレルワークですね。何だか、凄いふたりにインタビューしてる自分を褒めてあげたい。
ちょうど時刻はお昼過ぎ。「CONTE」さんでランチをいただこうと思います。
今日が初対面だったからか、緊張気味なのか。黙々とランチを食べるおふたり。
いやー、美味しかった。全体的に優しい味ですよね。
こんなオシャレな外食ランチは久しぶりかもです。
今日のランチは「県産豚のローストマスタード添え(1,200円税込み)」。
ランチは、メインを選べて全4種類。本日のスープと県産野菜を使った数種のデリ、そしてライス付き。プラス150円でドリンクもセットできるお得感(一部のドリンクを除く)。
手の込んだ前菜のデリは、ひとつずつが異なる味付け。器は、主に沖縄作家の焼き物です。メイン料理も店内も全てにこだわりを感じる居心地の良さ。
柔らかい木漏れ日のような穏やかな時間を感じるカフェCONTEの世界観が、好きだ!
突き抜けたネタやテーマが大事。自分の視点と感性で表現すること
ーライティングや編集でのこだわりやタブーなことー
ライティングで、何かこだわっている点はありますか。
DEEokinawaの場合は、文章力というよりも、ひとつひとつのネタをガチで選ぶこと。たまにテーマがぼやけてることがあって。例えば、4月に公開した「コーレーグースは何で割ればおいしいのか」。あれは、よくないね!な記事で。僕が書いたんですけどね。笑
ちなみに、DEEokinawaさんのネタ選びの基準ってありますか。
そうですね。起点があって最後に結論がある。深いテーマや持論を追求する視点や記事として成立するかも大事で、1本の記事にまとまるネタを探す。ネタ選びってとても重要ですからね。あと、そのネタは本当に沖縄を題材にしてるのかなど。
1本軸が突き抜けてる感じ。記事としては強いですよね。セソコさんは、ライティングや編集でこだわっている部分はありますか。
編集も執筆も自己表現のひとつだと思っているんです。情報が溢れている世の中で、自分の視点をしっかり持って他と差別化する。自分はこんな紹介の仕方ができるという強みを持つこと。自分の感性を大事にして、素直にいいな!と思えたことを表現していく。逆にいうと心が動かなければ表現しない。取材者の魅力がしっかりと伝わる表現方法を考え抜くことですね。
自分の感性や心に問いかけて、考えて、表現して。その視点を自分の強みにしていくと。
あと、沖縄で仕事していることの意味を、常に意識するようにしています。沖縄に恩返しがしたいという思いもあるので、沖縄にとって良い情報を発信することと、沖縄にいるからこそクオリティの高い仕事をしたい、という両方の意味で。
住んでる場所を意識するって、実はとても大切なのもしれませんね。今から薄っいことを言いますが、セソコさんは、洗練されたカフェやパン屋などを取材してるイメージがあります。
東京で「自休自足」という雑誌に関わっていた頃、地方でカフェやパン屋がブームになって店が続々とオープンしていた時期があって。その取材をする中で触れた世界観が好きだったんです。たくさん見てきたから自分の得意なジャンルでもある。だから沖縄に来てからも、このお店はいいな、っていう判断が自然にできるんじゃないかな。
他と比較できる視点を持ってると視野が広がるし、強いですよね。
そうですね。あと、1番大切にしているのは人ですね。だた単に、高品質や高価なもの、形状が美しいとかでなく、店のオーナーや作り手にはそれぞれどんな想いがあって、どう暮らしを大切にしているのか。人となりに共感できる、そんな場所に取材に行きたいですね。
熱意というか、何かしら思い入れのある人たちは、お店とか商品とかにその心意気が現れてるように感じますよね。
営業時間とか表面的な情報だけだと、情報は古くなってしまうけど、店のオーナーさんの人生とか、ひとつでも読者にとって役立つ情報があると、普遍的な記事になっていく。読んだ人の人生が豊かになる、そんな情報を発信していきたいと思ってるんですよね。
編集についてのこだわりって、DEEokinawaさんとしては何かありますか?
僕は、編集へのこだわりはあまりないかな。大枠を固めればさほど問題がないというか、全体のアウトラインがわかって、なるほどな!と思える役立つ知識がひとつはあるといいよねと。沖縄に住んでる人でも知らないことが意外とあるので、深く掘り下げてしっかり調べて書くことを大切にしてますね。
記事の構成を考え、自分で調べられる力。突き抜けた強い記事を作るには大切な視点ですね。逆に、これは絶対にやらないぞ!と決めてることはありますか?
僕は、特にないですかね。あっ。愛がないことを書かないくらいかな。DEEokinawaは、ふざけたことも書きますけど、ただバカにする感じだと愛がないじゃないですか。記事にするネタをリスペクトした上でふざける。そこには少し気を使ってますね。基本的にやっちゃいけないこと書いてたら、こんなに長く続いてないかなって。笑
過去に炎上したことは、ないんですか?
それが、あるんですよ(笑)。店内に貼られた泡盛のPOPを紹介した記事で。店の人はもの凄く泡盛を愛してる人で、ただPOPに書いた文章の伝え方が少し悪かったというか。僕たちは蚊帳の外だったんですけど、記事にしたことでそのお店が炎上してしまったという。
うわあ、そんなこともあるんですね。
Webメディアの炎上ではなく、ネタ元が炎上。それ精神的にちょっとキツいですね。セソコさんは、やらないと決めてることってありますか?
僕は、嘘をつかないことですかね。自分がいいなと思ったものだけを表現する。記事を読んだ人がその場所に行った時、ちゃんと感動できるように。いくら仕事でも、ダメなものをイイと書いたら、それは読者を裏切る行為になってしまうから。
本田さんの「愛がないことは書かない」とセソコさんの「嘘は書かない」。これ当たり前のように感じますけど、これ名言といっても過言ではないですね。
沖縄だからこそ、発信すべきテーマとは!?
沖縄…沖縄かあ。テーマによっての優越は、特に考えたことはないですね。歴史にしろ、お店の情報にしろ、等しく価値のある情報だと思うので、このテーマだから意義があるという考え方はしたことがないんですよね。
僕らは、DEEokinawaで好きなことを発信してるので、自分の好きなことを突き詰めて発信してみたらいいんじゃないかと思いますね。
あと、色んな視点があるほうが面白い。色んな人が、色んな価値観で発信していくほうが面白いのかなって。
伝えるスキルを持つこと。そして、感動することが大事
沖縄情報を発信するWeb メディアが乱立する中、どれも似たり寄ったりの情報を掲載する記事が多いと感じていいます。そこから、ひとつ突き抜けた記事に作り上げるには、何が必要だと思いますか?
メディアであれば、確固たる軸になるコンセプトを持つこと。ライター個人のレベルであれば、しっかりと自分の視点や個性を持つこと。情報が溢れている中で埋もれないためには、伝えるためのスキルが必要で、そこが重要になってくると思います。
伝えるためのスキル。セソコさんは、どんなスキルをお持ちでしょうか。
僕の場合は、写真もそのひとつですかね。例えば、お店を紹介する時、自分が読者に伝えたいことが伝わりやすい写真を自分で撮影できたらいいなと思って。現実を現実のまま撮ろうとはしてなくて、極端にいえば「心象風景」だと思って撮影しています。
自分が見たまま、感じたままの光景を写真に収める。写真でも嘘のない個性を持った表現をしてるんですね。
それが自己表現というか。それぞれの人たちが、自分の表現力を出せたらいいのかなって。
自分の視点を身につけるのは、やはり経験を積むしかないんでしょうか。
経験だけではないと思います。なんというか、ちゃんと感動することが大事だなと。
感動することが大事。名言出ましたね!
窓から入る光がきれいだなとか、観葉植物が青々しくて爽やかだなとか。そういうことにちゃんと気づけるように、自分の暮らしを豊かにして充実させることも大事だと思っています。心に余裕がないと、いろんなことを見過ごしてしまうので。
心の余裕!心の余裕って本当に大事ですよね……
あと、場の空気やその人を感じることで、ひとつひとつの思いや情景をきちんと拾い集めてカタチにして表現していくことですね。
今後、若手のライターに必要となってくるスキルは、何だと思いますか?
DEEokinawaは、もともと好きなことがあって何かをやりたい人が集まってくる。例えば、外部ライターさんの中に、本業ではトラックを売ってる人がいるんだけど、沖縄では昔、一風変わった貧血検査があったらしくて、それを記事にしたいと。現在もやってるところを探してるんだけど、未だに見つかってない。笑
ははは。トラックを売ってるだけでもすごいのに、面白いですね。
もともと興味を持ってることがあって、みんな聞いてくれ!っと思っている人たちが多くて、それをどこかで紹介したいと。やりたいことを突き詰めていく人たちだから変わった人が多い。変態が多いというか。笑
文章力には自信がないけれど、DEEokinawaで書きたいんです!という人がいたら?
文章がつたないのはどうにかなるので、好きを突き詰めてる人がいいですね。マニアックな人って話も面白いんですよ。文章力については、あまり気にしてないので、さほど考慮はしてないですね。……わからないけど。笑
DEEokinawaさんが探してるライターは「好きを突き詰めているマニアック」で合ってますね?セソコさんが思う若手ライターに必要なスキルとは?
ひとつは好奇心があること。好奇心がないと、何かを知ろうと努力しないので、ライターとして始まらない(笑)。そして責任感があること。あたり前だけど、仕事を最後までまっとうするというのは大切です。あとは、感受性ですね。何も感じないと、無味無臭な原稿しか書けないので。
あああ、耳が痛い……耳が。
ははは。文章って書けば書くほど、たくさん本を読めば読むほど、ある程度のところまでは誰でも書けるようになる。だから文章の基礎的な技術がどうこうというよりは、好奇心や感受性が大事ですよね。……わからないですけど。笑
仕事にしても暮らしの中でも、人は何かしら常に編集をしていて、身近にある生活から仕事で何か作業することも「編集」のひとつだといえるのでしょう。
また、ライティングに必要なのは、文章力だけではないと、おふたりとも話していました。
普段から何を見て、どう感じで、どう考え抜いて、どのようなスキルを自分の強みとして持っていたら、人に伝わる表現ができるのか。いろんな視点や表現方法がある中、自分が面白いと感じること、好きなことを突き詰めていけば、その先に自分の視点や個性が見えてくるのかもしれません。
そして、後編に続く。