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こんにちは、ライターのナガハマヒロキです。
近ごろ、地方からもたらされる個性溢れるニュースに触れる機会が多くなったと感じませんか?インターネットが情報の産地直送を実現し、時間と距離の壁を無くしました。沖縄は「観光立県沖縄」と言われ、平成26年度には年間で約717万人(沖縄県 文化観光スポーツ部 観光政策課「平成 26 年度 沖縄県入域観光客統計概況」より)が沖縄に旅行に訪れており、年々増加傾向にあります。
そんな中、県内でも各社、各メディアがどれだけ県内はもちろん県外のユーザーに情報を届けていくことができるか、課題として挙げられています。
そこで今回は「沖縄(ローカル)からのWEB発信」に関して、県内の代表的なWEBメディアを運営しているお二人に、実際に自身の経験を基に語ってもらいました。
まず一人目は県内紙である沖縄タイムスのWEBメディアを手掛けるデジタル部の編集者・記者の與那覇里子さん。
そして二人目は県内のWEBメディアや媒体で編集から、WEBマーケティングまで幅広く行うディレクターであるokinawa.ioの金城辰一郎さん。
お二人が考える、沖縄のWEBメディア最前線で感じられる課題、そしてローカルの強みとは一体何なのでしょうか。
與那覇 里子:1982年、那覇市生まれ。千葉大学卒業。2007年、沖縄タイムス社入社。こども新聞「ワラビー」、社会部(環境、教育などを担当)を経て2014年から現職。2014年、GIS沖縄研究室と共同制作した「具志頭村〜空白の沖縄戦」がGeoアクティビティフェスタで奨励賞、ジャーナリズムイノベーションアワードでデジタルジャーナリズム特別賞。2015年、同研究室、首都大学東京渡邉英徳研究室と共同制作した「沖縄戦デジタルアーカイブ」が文化庁メディア芸術祭入選など。 大学在学中から、若者文化を研究し、著書に2008年「若者文化をどうみるか」(アドバンテージサーバー)編著など。
Twitter:@theokinawatimes
Facebook:https://www.facebook.com/okinawatimes/
金城 辰一郎:1987年糸満市生まれ。WEBマーケティングが専門領域で、これまでにNHKなどのソーシャルメディア活用のサポートを行う。2013年に起ち上げ間もないBASEに入社。マーケターとして成長を促進させる。2016年に東京から沖縄に戻り独立。デジタルマーケティングエージェンシーとしてオキナワアイオー株式会社を設立する。
Twitter : @illshin
BLOG : http://shinkinjo.com/
Facebook : https://www.facebook.com/shin.kinjo
「週間ファミマガ | 沖縄ファミリーマート」
「What a Wonderful World!! 16 ウェブサイト」
ツールの変化が地方からのWEB発信を多様化させる
まずは早速ですが與那覇さん、沖縄タイムスのWEBでの発信についてお話しして頂けますか
沖縄タイムスWEBページの「沖縄タイムス+プラス」は、その日の紙面に掲載された記事をはじめ、事件・事故などの速報、天気やイベント情報を発信しています。紙面には載らない独自のコンテンツも配信しているコーナーもあって、「タイムス×クロス」は気鋭のジャーナリストや学者が旬のテーマを、分かりやすく深掘りするような論考を掲載、「タイムスW(ダブル)」は、観光・経済系のコラムや沖縄で何が起きているのかを追ったルポ記事、女性の生き方などを掲載しています
新聞購読率が低いと言われている若い世代や、これまで新聞本紙に触れていなかった層への発信についてはどう考えていますか
情報を受け取るツールの問題なのかなと思っていて、スマホの登場以降、新聞社のサイトに行ってまでニュースを取る時代ではなくなったんですね。流れて来るのを拾い読む、という感じですよね。『LINE』や『SmartNews』などそれぞれのユーザー層に向けて、見出しを変えてみたり発信する情報を使い分けていくことが、発信する側にとっては大事なことのように思えます
具体的にはどういう使い分けをしていますか
『LINE』で出す情報は基本的に政治少なめです。観光やグルメなどの柔らかい情報を多めに出していますね
『Twitter』や『Instagram』、『LINE』のユーザーの属性も偏りがあったりするので、見出しはもちろんそれぞれの媒体ごとにアイキャッチ画像を変えていくことは今後求められていくかも知れないですね
また、記事に関連リンクを貼って、このニュースソースの会社はこんな記事を書いているんだなってカラーをアピールすることも大事だと思います
PV数(ページビュー数)は深堀りされた情報やユーザーとの関係性の結果もたらされる
金城さんは今現在どういったWEBの運用を行っていますか
メインでやっているのが大きく2つあって、1つは琉球インタラクティブ株式会社さんと一緒に取り組ませてもらっている沖縄ファミリーマートさんのオウンドメディアである、『ファミマガ』です。地元密着をテーマにしている会社なので、県内向けの情報発信を行っています。もう1つが、モンゴル800が主催している夏フェスの、『What a Wonderful World!! 16』のWEBサイト・ソーシャルメディアの運営など、WEBのマーケティングまわりを任せてもらっています。あとは他のサイトに手伝いで入ったりですとか
民間企業なので、やはりブランドイメージの向上や、店舗やイベントへの集客を最終的な目的にしていると思うのですが、やはりPV数(ページビュー数)は命題ですか
訪問者数、滞在時間、シェア数といった数字の他に、アンケートなど定性的な声も指標としては重要ですが、まず一定の規模になるまでは、これらを反映する包括的な数字としてPVをみています。
PVを高めていくために取っている方法論はありますか
継続的に流入が見込める質の高いコンテンツを作ることだと考えています。特定の分野やキーワードについて、その記事だけ読めば知りたい情報がカバーできるくらい詳しい内容であれば検索順位もあがっていくと、これまでの経験から感じています。もちろん認知を素早く広げるために拡散性のあるコンテンツも必要ですが、検索からの流入がPV底上げにじわじわ効いてくるのは間違いないですね。
情報の消費されるスピードが早い中で、情報というよりは現象を取り上げるというか。そしてその現象の裏にある人の動きや物事に着目した記事が長く読まれる記事につながると思います
タイムスでも本紙の情報をWEBで深堀りとかするんですか
この間『ハチのように見える蛾が発見された』っていう記事があったんですけど、WEBでは『なぜ見破れたのか』という視点で掘り下げることができましたね
新聞だけだとどうしても事実情報だけになりますからね
『1/47』で勝負するよりも『全国』で勝負をする
ローカルから全国に向けて情報を発信する中で、県内外のギャップはありますか
沖縄県民が求めている情報と、県外の人が求めている情報が違うので、ニーズの汲み取り方が沖縄県内に住んでいたらちょっと難しいところがあります。だから常に六本木のスタバにいる感覚で、求められているだろう記事を考えています!
それ面白いですね〜(笑)
都会的な感じがあるオシャレなボサノヴァ流したりしながらだと、よりその嗅覚が研ぎ澄まされるんじゃないですか
絶対そのくらいした方が良いと思う!言葉選びも上手くいくと思う
沖縄地方紙だったら沖縄の情報に則するというか、変に中央に迎合した情報を出さなくても良いのでは、みたいな声は社内にはありませんでしたか
いや〜そんなこと言ってたら地方の域は超えられない言うか・・・紙の世界とWEBの世界は違うので、沖縄県内だけの情報でって言ってもしょうがないと思っていて。1/47で勝負するよりも全国で勝負した方が特にWEBはマネタイズ的にも良いですよね
特にWEBの世界は、少人数のチームで世界中にリーチできたりと、うまくやればスケールしていくことも全然可能ですからね。場所の垣根は無いですよね
県内メディアの情報が乱立し『国際通り化』している
沖縄のWEB発信の課題についてはどう考えですか?
沖縄発信のWEBコンテンツで県外から見られているものって、観光情報やECサイト(沖縄の特産品などを扱う通販サイト)が本当に多いんですよ
旅行系のキュレーションメディアもここ最近とても増えましたね。沖縄のカフェとかビーチとかの観光情報が溢れている気がします。
なので、どのサイトもこの2つのジャンルの情報が乱立しているというか、乱立せざるを得ない状況になっているというか。私の中ではコンテンツが国際通り化している、という感覚なんです
それはコンテンツが没個性というニュアンスですか
観光のWEBメディアというのは結果的に人の導線をもたらすので、掲載されている情報がイコール街作りに繋がっていくんですよ。それが画一化されてしまっているということは、人と街とのコミュニケーションも制限されてしまうと思います
僕もコンテンツを企画する時、いいと思ったアイデアを検索してみると、すでに他のサイトで書かれてる場合が多いですね。沖縄は大きい土地でもないので、コンテンツはすでに網羅されている感じはあります。その中で差別化した独自の切り口の観光コンテンツはどんどん難しくなっているなというのは実感しています。まぁ、そこを頑張らないといけないところですが(笑)
スポット情報はすでに押さえられていると
なので今、人ベースの記事に特化するのはどうかなぁと考えているんです。例えば職人さんの密着記事とか、そういった切り口は良いなぁと考えています。今は多くの方がソーシャルメディアを使っているため、その人自体に拡散してもらえる効果もあります。その他には掛け合わせですね。例えばドライブインレストランの紹介記事だと既出感があるんですけど、そこに置いてある共通の商品に特化していくとか。次の戦略を練らないと業界全体的に大変だなぁとは思っています
ローカルからの発信の強みと方法論
逆に地方からの発信だからこそ、できるだろう事ってありますか
以前にマーケティングを担当していたBASEでのネットショップ運営者を見ていると、ソーシャルメディアを活用して、個人個人がストーリーを伴う発信者となり、ファンを作って中央に負けないくらいの販売実績を作る方も大勢います。中央の人が経験できないような土地のユニークさを写真や動画で発信して、かつしっかりとお金儲けもできている。ソーシャルメディアを活用した個人ベースでの勝ちパターンが確立されている気がします。特にInstagramとかはすごいですね。
地方の持つ土地のユニークさが強みになっていると
FacebookやTwitterなんかは動画を生中継する機能もできています。今いる場所のリアルな様子を伝えられる環境が整いました。海外ではインフルエンサーと呼ばれる影響力を持つ人を活用して商品をPRするという手法が一般的になっています
地方の新聞記者という立場から、ローカルでの発信での強みはどう考えますか
東京で記者になってたら、自分の強みは何なんだろうと思っていたと思う。沖縄にいたから歴史や文化がそばにあって『沖縄戦デジタルアーカイブ』もできたと思うし。情報の流通という意味で言えば、全国に流れる地方の情報は一度中央に集められてから伝わりやすいように加工されてリリースされていたけど、今は地方からダイレクトに情報が届けられるようになったので、その点はプラスに変わったと思う
地方のメディアのメリットはコミュニティ形成がしやすいなぁと思ってて。やっぱり住んでいる場所や、会おうと思えばすぐ会えないことはない身近な人の情報だと、自分が読む必然性が出てきますよね。共感もしやすいと思います。そしてそれを伝えようと、個人レベルでSNSを用いて発信すれば、同心円上にもっと県外にも拡散されていくのではないかと思います
沖縄WEBメディアの今後の展望
今後、自分が関わるメディア発信の展望はどう考えていますか
広告だけのマネタイズ以外にも、イベント展開できればもっともっと面白くなると思います。そしてそこでの体験を参加者各々がよい形でSNSでもブログでもアウトプットしてくれれば、リーチが伸びてメディア運営企業もブランディングでき、さらに大きな規模でのイベントも可能になる。そして沖縄はそれが実現できやすい土地だと思います
情報は循環させていくことが大事だということですね
そうですね、情報はアウトプットしていかないとインプットもされないと思っています。僕自身もブログを書いていることがきっかけで、良い出会いや機会も得られました。沖縄でも個人で情報発信する人がもっと増えれば良いなぁと思っています
タイムスのデジタルコンテンツ部としては、もっと媒体のファンや、『LINE』『twitter』でフォローしてくれる人を増やして裾野を広げていきたいです。まだWEB媒体を絡めたイベントが出来ていないのでうちでもやりたいですね。実は、一昨年あたりから修学旅行生と街歩きをしているんです
歴史や文化を案内しているんですか
マッピングした昔の地図をタブレットで持ち歩いて、その場所に行くとかつて取り上げられたニュースが紐付けられるんです。例えば、国際通りに行くと当時行われた具志堅用高さんの世界チャンピオン凱旋パレードの記事が出てきます。コースも先方に事前に選んでもらって、該当する場所を歴史と共に巡るんです。とても楽しいですよ!
その時間軸を超えていくツアー、とても参加したいです!
アーカイブやデータジャーナリズムはもっとやりたいですね。何となくわかっていたことをデータを使って検証する、ということをやっていきたいです。また今度からクラウドファンディングもスタートする予定です
「Link-U」ですか?
そうです!商品や企画をスタートアップしたい人が「Link-U」で発信していきます。サイトオープンは秋で初回の説明会を8月29日に行いました。
おぉ!この仕組みは、地方の繋がり×WEB×リアルへの展開が実現できるものになりますね!
「注目度が高い沖縄」でローカルならではのWEB発信を!
(左から與那覇里子さん、金城辰一郎さん =那覇市久茂地 沖縄タイムス本社ビル前)
沖縄県内でも紙、WEB合わせ、かなり多くのメディア媒体が、県内、県外のユーザーをターゲットに向けて、日々発信をしています。
その中で複数のメディアが同じ情報元へ取材へ行き、コンテンツ化し、発信をしています。それがメディアを読んでくれるユーザーにとって、本当に欲しい情報なのか、否かは置いておいて、発信するメディア側は「国際通り化」から抜け出せることができるか。それが今後の沖縄の発信の課題にもなってくるのではないでしょうか。
「企業+WEB(オウンドメディア)」で、プロモーションの役割を。「紙+WEB」で、ひと昔前なら競合と言われていた両媒体は今や共存・補完が可能に。
情報の質はさることながら、重要視される届け方の戦略。そしてその戦略次第では、今まで届かなかった層にも伝えられるという可能性にまだまだ伸びしろを感じます。
「沖縄は注目度と言う意味でも非常にラッキーな土地」と声を揃えていた二人。中央が羨ましがる地方のユニークさと、人間関係が近いコミュニティ力を武器に、ローカルからのWEB発信はますます人を巻き込み発展していきそうです。