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石垣島に来て、石垣島の七不思議に遭遇しました。沖縄のライター・編集者チーム「OKINAWA GRIT(オキグリ)」の代表を務める、ライターみやねえです。
石垣島在住者から、不思議な情報を仕入れたのです。
「石垣島には、なぜか鮮魚店が多いんですよ」
「へえ…」
その場でスマホのGoogleマップを開き、「石垣島 鮮魚店」で検索してみると、石垣島の繁華街周辺のマップに、ピョコン!と赤いマークが現れ、その数ざっと20店舗以上。距離にして半径2km圏内に集中しています。
コンビニよりも鮮魚店のほうが多い?
そんなバカな…!?と目を疑い、この現象は、一体何なのか。石垣島で鮮魚店が多い理由を、、、知りたい知りたい。膨れ上がった好奇心が、心の中でざわつき始めました。
「なぜ石垣島には鮮魚店が多いのか?」
この謎を解明するべく、突撃取材を決行!と思いきや、誰に話を聞くべきか見当がつかず、途方に暮れてネットを検索。すると、毎朝9時から石垣漁港でセリを開催している、そんな情報がヒットしました。
「なーる。石垣漁港か…」
その翌朝、石垣漁港の朝セリに向かっていました。石垣島の公共交通機関はバスだけ。繁華街近くのバスターミナルに朝8時すぎに到着するも、石垣漁港に向かうバスが、9時頃までないのです。
「それでは間に合わないな…」
バスターミナルから石垣漁港まで約2km。徒歩では無理そう。ああ、この計画性のなさよ。ならば、仕方がない。タクシーに乗車して石垣漁港へと向かったのです。
「ほおおお。到着しました!」と三脚を立てて、ひとり記念撮影。三脚のセットに手間取り、気づくと9時5分。大変だ、もうセリが始まっているじゃないか。
しかし、八重山漁業協同組合の建物に近づくと、違和感を覚えたのです。なぜなら、漁港があまりにも静かすぎるから。会場らしき場所を覗き込むと…
はっ?誰もいないし、セリやってない!?
まさかの空振り。今日はセリお休みか…。
八重山漁業協同組合の関係者らしき人物に声をかけると、「ああ。今日は漁が少なくて、すぐにセリが終わっちゃったんですよ」と言われて、何分くらいで終了したのか尋ねると「んん…10分かかってない。いや、5分くらいかな?」
ガーン。顔面蒼白…。石垣漁港のセリから始まり、鮮魚店が多い石垣島の謎を解明していく今記事の構成が見事に崩れ去りました。
明日来たら?
今夜、沖縄本島に戻るんですよ。
・・・・・
・・・・・
あっそうそう。今日ね。かつお漁船が入港するんですよ。その時、見に来ませんか?
ええっ?み、見たいですーーーーー(この人、神か?)
じゃあ、あとで連絡しますね?
助かります。ええっと、かつお漁船は何時ごろに入港予定ですか。
さて、わかりません。
わ、わかりません?
港に近づくと、かつお漁船から連絡が入るんですよ。
それまで何時に戻るか見当もつかないと?
そういうことです(笑)。でも午前中か、お昼ごろにはたぶん…。もう一度、石垣漁港まで来ます?連絡しましょうか?
(ううう…)来ます。連絡お願いします〜!
かつお漁船が戻るまで待つこと2時間、30分後に入港!と連絡が入る
待ち時間に市内バスに乗り、石垣市公設市場がある商店街のユーグレナモールへと訪れました。ここには、家族で経営する鮮魚店があるのです。
しかし、ゆっくりしている時間はなく、かつお漁船の入港合図とともに素早く石垣漁港にトンボ返りしなくては。目的の鮮魚店に立ち寄って話を聞き、写真を撮って、まだ電話はかかってきません、ドキドキ…。
喉が渇いてジュースでも買うおかと、730交差点のコンビニに入りかけた瞬間、トゥルルル…トゥルルル…電話がかかってきた!!
「30分後、かつお漁船が入港しますよ」
思わずテンションが上がる。急いで向かうも石垣漁港行きのバスを待つと、また間に合わない。おきなわマグネットさん、すみません。本日2回目のタクシー乗ります!
人が集まり慌ただしくなってきた石垣漁港に、かつお漁船が入港!
朝は人の姿がなかった八重山漁業協同組合の建物に人集りができ、いよいよ、かつお漁船が入港するようです。少しの期待と躍動感とで妙に胸が高鳴っている。
船が入港した途端、待機していた人々がかつお漁船を取り囲み、一気に人の動きが加速していきます。ロープで船を固定した後、船底の貯蔵庫から若者の船員が魚を運び出しました。
両手に掴んだ魚をカゴに投げ入れ、この作業をひとりで何度も繰り返しています。中には大物の魚もいて、これは並大抵の体力では保たないはず。
魚が満タンに入ったカゴに水を浴びせながら、クレーンで持ち上げられていきます。
数人がかりで地上まで運ぶと、クレーンから降ろし…
建物までの数メートルを人力でスライドして運び、これら一連の作業を何度も繰り返して、漁獲したすべての魚が水揚げされるのです。船底の貯蔵庫から1匹残らず魚がなくなるまで…。
後ろを振り返ると…
はああああっ。すごい!!!
この圧巻な光景を見て、キャッキャとはしゃぐ自分がいました。漁師の皆さんは慣れたもので淡々と作業をこなしています。この魚は、マグロの一種だそう。
テーブルで待機していた漁師たちが、その場で魚を捌き始めました。
ここで捌いた魚は、工場に行くとのこと。かぶと煮にしたらおいしそう…。
あまり見覚えのない魚の名前は「マンピカー」といい、シイラのこと。なるほど!シイラなら聞いたことがありますね。
そして、奥のテーブルで待機する人たちがいました。
魚が水揚げされると、鮮魚店の人たちが魚を取り囲み、購入する魚を選び始めます。
選ぶというよりは、一瞬の鋭い目利きで素早く鮮魚を手掴みで拾い上げ、早いもの勝ち。その後は、魚の重量を測って値付けされ、テーブルに待機したスタッフが、その場で鮮魚店ごとに見積もり書を作成していました。
素早く値付けされた魚は、スムーズに購入処理がなされて、次々と鮮魚店の人が軽トラックに魚を積み込み、サクッと颯爽に帰宅していきます。
恐らく水揚げ開始からトータルして、30分もかかっていない?
魚が水揚げされる光景を初見学して、そのスピード感に圧倒。日頃から作業をしている海人(うみんちゅ/沖縄の方言で「漁師さん」のこと)たちにとっては、日常の極当たり前な作業風景なんですね。
20kgのマグロが鮮魚店で裁かれて、刺し身や煮付けとして販売される。
海中で孵化してから天敵を凌ぎ、餌を求めて海の中を彷徨い、捕獲されるまで泳ぎ続けながら生き続けるマグロたち。そのマグロが捕獲され、鮮魚店で捌かれてお客さんに購入されていく。
食卓に並ぶマグロのお刺身よ。この世に誕生してから一家の食卓に並ぶまでのマグロの生涯、そのストーリーに壮大なロマンを感じます。おいしく食べてあげないと、いけない気がして、食べ物を粗末に扱ってはいけないね?と、そんな言葉が脳裏に浮かびました。
これもマグロです。外国人の若者たちが清々しく働いていた時、やっと気づきました。
「この船、かつお漁船だったはず!?」
マグロばかりで、肝心のカツオをまだ見かけていません。どういうこと?
これカツオですか?
いえ違います。小ぶりな種類のマグロですね。
では、これがカツオですか?(たぶん違う…)
いえ、違います。マンピカーですね。
ですね。というか、カツオはどこですか?
カ、カツオがいた。(おいしそう)
テカテカに輝いた艷やかなカツオを発見。今回の漁では、あまりカツオを漁獲できなかったらしく、貴重なカツオを購入した鮮魚店さんに話を聞くと、これから店に戻ってカツオを捌き、夕方からカツオを販売するというのです。
もしや夕方、食べに行ってもいいですか?」
そう切り出した私の目は、きっとハートマークだったと思う。そんな約束をして鮮魚店の方は漁港から笑顔で爽快に去っていきました。
石垣島に鮮魚店が多い理由。それは昔の協同売店や市場の名残だった
取材の目的を忘れかけ、本題の「なぜ石垣島には鮮魚店が多いのか」を八重山漁業協同組合の友利さんに伺ってみました。
あの〜友利さん。石垣島には鮮魚店が多いと聞きまして、Googleマップで調べたところ、2km圏内に軽く20軒以上。なぜ、こんなに多いんですか?
ああ、人口の割には多いかもしれないですね。
タクシーの運転手さんにも聞いてみたら、「昔から石垣島には鮮魚店がたくさんあるさー」ということなんですけど、いつ頃から鮮魚店が増えていったのか覚えてます?
僕が小学生の頃は、今みたいに鮮魚店は多くなかったんですよ。例えば、父親が海人(漁師)として働く家族もいて、旦那さんが漁に出て、魚を釣ってはタライに入れて「買ってくれないかーっ」と1軒ずつ家を尋ねて売り歩いてたんです。
おお、昭和の風情…。離島だとなおさら原風景のような長閑な光景が思い浮かびますね。
懐かしいですね(笑)。そうしているうちに、今度は奥さん同士が集まって市場を作り始めてね。今はもうその市場はないんだけど、旦那さんが釣ってきた魚を、4〜5名の奥さんたちが市場で販売するようになって。何ヶ所かありましたね。
おおっ。鮮魚店の原型が見えてたような(笑)。
年月の経過とともに、今度はその奥さんたちが個人で商いをするようになって、別々に鮮魚店を営業し始めたんですよ。
なるほど。市場の集合体から独立していったんですね。そうなると、市場は鮮魚店を取りまとめるHUBというか、巣立つ子供を見守る親のような存在ですね。
そうかもしれないですね。そのうちに鮮魚店の前で、刺身を食べながらビールを飲みだしてね。そうすると椅子やテーブルを店先に並べるでしょ?だから昼間から飲み会が始まる。笑
おお。現代でいう、昼飲みができる居酒屋ですね。
そうそう。鮮魚店で刺し身を食べながらビールを飲んで。だから今度は、店の隣に居酒屋をオープンする鮮魚店が現れてね。
なるほど!つまり、海人の父親が釣った魚を、家族営業する鮮魚店で刺し身にして販売すると。店先から始まった昼飲みが居酒屋になって、だから昼間、鮮魚店で販売していた刺し身を夜の居酒屋でも提供できる?
そうなんですよ。「今日捕った魚の刺し身がまだあるし、居酒屋で提供してみる?」となっていった感じですかね。そのまま今に至る、といった経緯です。
それってある意味、めちゃめちゃ合理的な考え方ですね。捨てるところが何もないというか、素晴らしい相乗効果。父親が漁師をして、家族で経営している鮮魚店が多いんですか。
まあ、そうなりますね。
1点気になってるんですが、いわゆる競合相手、ライバルになり得る鮮魚店がこれだけ密集してると、お客さんが分散して単純に売上が下がる気もするのですが?
んんー。どうですかね。刺し身とお酒って合うでしょ?ビールでも泡盛でも。あとカルパッチョとか洋食にも刺し身って合うから。僕は毎晩、刺し身を食べてますよ。笑
えっ毎日?それ本当ですか。あと後継者問題も気になるところですね。
まあ、それは確かに。後継者がいなくてお店を閉めた人たちもいますよね。
これからも新鮮な鮮魚を石垣島の人たちの食卓に届けてほしいと思うし、石垣島に来たら鮮魚店の売上に貢献するべく刺し身や天ぷらを購入したいですね。
ぜひぜひ。皆さん喜ぶと思います。
今、石垣島に残っている市場は、ユーグレナモールの石垣市公設市場だけでしょうか。
そうなんですよ。市場でも刺し身を購入できるし、市内にも点在してるので、石垣島のおいしい鮮魚をぜひ食べてもらいたいですね。
ありがとうございました。では、これから鮮魚店巡りをしてきます〜!
また来てね。鮮魚店巡り、いってらっしゃーい!
石垣市民がお勧めする、石垣島の鮮魚店4店舗を巡ってきた
半径2km圏内にある20店舗以上の鮮魚店。しかし、どの店を選べばいいのか迷いますよね。そこで石垣市民にお勧めされた4店舗を巡りました。軽〜く紹介していきます。
商店街のユーグレナモールで朝からオープンする「たましろ鮮魚店」
アーケードの商店街・ユーグレナモールには、石垣市公設市場があり、その建物の隣に家族で経営する「たましろ鮮魚店」を発見。4代目店主に話を伺いました。
朝6時頃から奥の厨房で天ぷらを揚げたり、刺し身を捌いたりするのが、初代店主の祖母。もともとは祖父が漁をしており、現在5代目となる弟2名がマグロ漁船で延縄漁を行い、漁獲した鮮魚を捌いて、刺し身や天ぷらなどを販売しています。
この立地を生かして、お土産用の商品を作れないかと、鮮魚を加工して石垣島の佃煮を販売するようになり、ラッピングのデザインを手掛けたのが、初代祖父母の孫にあたる2代目店主。この日は、マンボウの佃煮が販売されていました。
・刺し身:300円〜
・天ぷら:300円〜
八重山漁業協同組合からほど近く、12時オープンの「仲田鮮魚店」
八重山漁業協同組合から徒歩5分。正午12時からオープンする仲田鮮魚店は、他店と比べると開店時間が早いです。
もともとは旦那さんのご両親がプレハブの建物で鮮魚店を開業。現在は、2代目となる旦那さんが漁師をして、奥様がお店に立って鮮魚店を経営しています。2年前にリニューアルをして、お店が新しくなったそうですよ。
この日は、マグロ漁船が漁に出ており、明日入港予定とのこと。刺し身の種類や量は少なめだったものの、次から次へと揚げ物や煮物が店頭に並び始めました。
「マグロのおカマちゃん」
「マグロのひとみちゃん」
商品名のポップを見て、思わずほっこり。マグロのカマ(頭)や目玉のことですね。カマ焼きとミジュンのフライが出てきて、沖縄といえば、セーイカの刺し身を食べてほしいところです。
・刺し身:300円〜
・セーイカの刺し身:300円
・天ぷら:300円〜
・魚のフライ、焼き物、煮物:300円〜
島内で8店舗の居酒屋を経営する「源丸」こと、マルゲン水産
今回のかつお漁船で漁をしていたのが、10年ほどと歴史の浅いマルゲン水産。2店舗の鮮魚店、8店舗の居酒屋を経営し、2艘のマグロ漁船と1艘のカツオ漁船を所有しているとか。
「海人居食屋 源丸」に隣接した「源丸直営店の鮮魚店」を営業し、鮮魚店は15時頃からオープンするそうです。
刺し身の種類が多く、イラブチャー(アオブダイ)の刺し身や源丸のかつおみそ、なんとお寿司6貫が300円!これ回らない寿司ですよ。天ぷらや揚げ物にも対応しており、厨房から次々と魚の惣菜が出てきました。
・刺し身:300円〜
・寿司6貫:300円
・魚の揚げ物:300円〜
軒並みならぬ人気店「みよし鮮魚店」は、活気ある接客とお客様目線のサービスが売り
ひっきりなしにお客さんが訪れる「よしみ鮮魚店」。その人気の秘訣は、気さくで気前が良く、家族で経営する接客の温かさ。そして、鮮魚の新鮮さと安さでしょう。その上、お客様目線のサービスが展開され、電話予約をすれば商品を確保してくれるのです。
この「よしみ鮮魚店」さんが、八重山漁業協同組合でカツオを購入していった鮮魚店です。夕方、お店に到着すると、カツオの刺し身を準備して、待っていてくれました。
現在は、漁に出るのは、父親と弟さん。娘さんが2代目として鮮魚店の舵を取り、初代の母と弟さんのお嫁さんも一緒に家族で鮮魚店を経営しています。
獲れたてのカツオが裁かれて、赤い身がキラキラしてる。これは、おいしいに決まってる!
人気のマグロの漬けやネギトロ、揚げたての天ぷらがどんどん購入されていきます。夕方の17時頃、夕飯に食べる刺し身を求めて訪れる島民が後を経ちません。10個以上入った300円の天ぷらに、マグロの漬けやネギトロも驚きの300円!
家族経営のアットホームな雰囲気が、お客様との会話から伝わってきました。
・刺し身:300円〜
・マグロの漬け/ネギトロ:300円
・カツオ:300円(少量)〜
・天ぷら:300円
石垣島で鮮魚店巡りをしたあとは、海鮮丼を作りたい
ライスの上に、購入した鮮魚の刺し身をゴソッとのせたら最高だろうな…。
スーパーマーケットでライスを購入して鮮魚店巡りをすれば、豪華な海鮮丼が完成します。北海道でいうところの函館や釧路の朝市で海鮮丼を食べるような気分を、南国の沖縄で体験できるなんて…。
沖縄独特の鮮魚や人気のマグロ。上手くすれば、朝獲りの活きがいい新鮮な魚介類を食べられるかもしれず、獲れたての鮮魚を捌いてから店頭に並べるため、鮮魚店を巡るのは、午後14時以降がベスト。石垣島の鮮魚店が午後からゆっくりと開店する理由が、ここにあるのです。
刺し身、ユッケ、天ぷら、煮付け、揚げ物、お寿司。店ごとに違うメニューを楽しめる石垣島の鮮魚店巡りは、1,000円もあれば満腹状態。今どき、1パック300円の刺し身とか、ありますか。石垣島が…石垣島が…良心的すぎる。もっと値段を高くしてもいいんだよ?
値上げをしないのは、一番の購入者である地元の人たちのため。くれぐれも鮮魚店に向かう時には、車の路上駐車や迷惑駐車に気をつけて、あれこれと鮮魚を購入して、たらふく味わってください。
石垣島に鮮魚店が多い謎は、その歴史を知ることで納得しました。