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八重山諸島の石垣島といえば、日本最南端のスタバがある沖縄の離島。ガッツポーズをした具志堅用高の像が立ち、石垣島産の乳酸菌飲料「ゲンキクール」をコンビニで購入できる。
石垣島に滞在した時、移住2カ月の方がこう切り出した。
オニササって知ってます?
いえ、知りませんねえ…
初めて聞いた言葉「オニササ」は、どうやら食べ物らしい。鬼のような笹?ああ、鬼のように大きな笹かまぼこ?いや、全然違うらしい。「すごいんですよ。マジ驚きなんですよ…」とオニササの正体を説明してくれた。
その後、石垣島在住者と会うたびに「オニササ知ってます?」と聞きまくったところ、百発百中の確率で「知ってる」と回答してくる。「ああ、昨日食べましたよ〜」とタイムリーな返答まであった。
気になる。非常に気になる。オニササが気になる…。
石垣島の住人ならば誰もが知る?オニササ発祥の「知念商会」
オニササを販売する店は「知念商会」といい、730交差点から北向けに徒歩15分強。散歩程度の距離だな、とオニササを求めて「知念商会」まで歩いて行ってみた。(バスがないからね…)
歩き始めると、すぐに汗だく状態。まだ少しだけ暑さが残る石垣島でじりじりと肌が日焼けしていく。Googleマップを見る限りでは、間もなく到着だ。
すると……
知念商会へとたどり着いた。
しかし、建物に近づくにつれて一瞬たじろぐ。なぜなら、知念商会が想像以上に横長の大きなスーパーだったからだ。
デカッ!
オニササと書かれたピンクののぼりが、やけに目立つ。
「商標登録と書いてある。んっ?元祖オニササ??」
店内に入ると、レジ前ではお客さんとスタッフが談笑し、ほのぼのする光景。
惣菜の値段は、10円だけ値上げしたらしい。張り紙してまで10円の値上げを知らせてくれる親切心に、ちょっと泣けた。
そして店内、広っ!
奥まで続く知念商会の店内が広い。
時刻にして15時過ぎ。そこそこにお客さんが入り、地元の人たちに親しまれている石垣島のスーパーといった雰囲気だ。入り口には島野菜が並んでいる。
奥に進むと、プラスチックのお弁当箱が目に入り、しかも量的にもスペース的にも大量だ。
この一角は何者だ?
左側と右側の棚、中央の台、奥の棚まで、プラスチックの使い捨て弁当箱がずらりと並んでいる。石垣島の人たちは、マイ弁当箱ではなく、使い捨ての弁当箱を使う人が多いのだろうか。知念商会の謎が深まっていく。
「一体、何屋さんなの?」
次は、ビニール袋のコーナーが現れた。
お弁当箱を捨てるゴミ袋?いや待てよ!?大型店舗のスーパーマーケットでさえ、こんなに大量のビニール袋は置かれていない。
なぜだ。なぜなんだ?
これは、商品に貼る値札シールだ。食品100円…食品120円…食品200円…食品300円….。お弁当のシールも多数。ん?刺身のシールまである。
オニササを買いに来て、店内のディスプレイや商品に目が釘付け。領収書や経理用ハンコの種類も多く、誰が買いに来るのか、興味津々な商品ばかりだ。
ああ、オニササに全くどり着けない…。
石垣島のB級グルメ、知念商会発祥「オニササ」の正体とは!?
この写真を見てピンと来た人は、いるだろうか。
手前に見えるのがお米。そう、ご飯である。やや黄色みがかっている理由は、沖縄の炊き込みご飯「ジューシー」だからだ。先端の尖ったカタチは、揚げ物の形状を象っている。
石垣島のB級グルメ。これが知念商会発祥のオニササだった。
オニササ、おにササ、おにぎりササ…。
ササ…? ササミカツ!?
(無理矢理感が否めない…)
おにぎりとササミカツを合体させた石垣島のB級グルメ。略して、オニササ!!
わかってしまうと何てことはない。しかし、「オニササ」の作り方が半端なく、、、楽しいのだ。お客さんが各自で作るセルフ方式。後半でじっくりと作り方を説明させてもらおう。
知念商会の女性店主に聞く、石垣島のB級グルメ「オニササ」の誕生秘話
「今、揚げ物してたものですから…」と現れた知念商会の女性店主・知念秀子さん。オニササと知念商会の歴史や変革を伺ってきた。
店内が広くて驚きました。知念商会さんは、いつごろから営業してるんですか。
息子(次男)が産まれてすぐだから、1981年(昭和56年)の5月ですね。乳飲み子を抱っこしながら働いていて、最初はトタン葺き10坪の建物から始めたものが、もう37年経ってますね。
次男の年齢と同じ?(つまり次男さん37歳…)息子さんの成長とともに、この店の歴史が刻まれてきたんですね。
長男が1978年生まれ、次男が1981年。長女が1984年だから、それぞれ3歳違い。長男が中学生だった頃、知念商会はこうだったなって記憶にも残りやすいの。笑
店の入り口に「元祖オニササ」と書かれてましたが、「オニササ」で商標登録を?
昨年ですかね。2018年に商標登録しました。実は今、長男と一緒に働いているんです。ちなみに、次男と長女は那覇にいます。
おお。長男も一緒に働いていると。商標登録は去年ですか。わりと最近なんですね。
正直に言うと、私としては「えっ?商標登録!?」と最初は思ったんです。自分で名付けたわけでもないし。でも子供たちが「オニササで商標登録したほうがいいんじゃない?」と何度か言われまして。
真似されて気分を害すくらいなら商標登録しておくほうが、懸命かもしれませんね。
そうですね…。今やあちこちで真似をしたり、下手をすると商品名まで使われてしまうからと、子供たちは心配だったみたいなんです。
1点質問いいでしょうか。私的には謎なのですが、店内で販売している大量の弁当箱やビニール袋。石垣島では売れてるんですか?
ああ、あれはですね(笑)。うちは昔から卸をやっていて、お弁当屋さんに弁当箱を卸しているんです。ビニール袋や領収書なんかも業者さん用。弁当箱を仕入れてもらう代わりに店内でお弁当を販売したりと、地元の人たちとの繋がりを大切にしながら商いをしています。
そういうこと!納得しました(笑)。では本題に入りましょう。オニササの歴史、特にオニササの誕生秘話を伺いたいのですが。
この店を開業した当初は、まだオニササがなかったんですよ。オニポーやオニコロはあったんですけど。
オニコロ…!?おにぎりとコロッケですよね。オニポーとは?
おにぎりとポークのことです。沖縄でよく食べるポークたまごのポーク。いつの間にか、学生さんたちが略して呼び始めたのが、商品名の由来ですね。
地元の人たちに「オニコロ」や「オニポー」と呼ばれて、名前が勝手に1人歩きをしていった?
そうなんですよ。オニコロやオニポーと呼ばれて、いろんな揚げ物を出していたら、いつの間にか「オニササ」だけが人気になって。笑
オニササ人気が自然に浮上して、注目されてしまったと?
そうそう。オニササって食べるとボリュームがあるので、学生たちにウケたのかなと。コロッケだと小ぶりでしょ?ササミカツはお肉だし、サイズが大きく満腹感が残るというか。見た目の形状も面白かったんでしょうね。
「オニササ」だけが脚光を浴びて知れ渡ったのは、不思議な現象ですね。笑
いろんな揚げ物を試して、なぜササミカツなのかな?と私たちも不思議なんですよ。笑
オニササに使う調味料の種類が豊富ですね。
最初は調味料を置いてなくて、息子たちから「お母さん、調味料は置いた方がいいよっ!」と提案されてソースやマヨネーズを用意しました。学生さんってマヨネーズ好きですよね?
マヨネーズ好きは多いと思いますね。子供たちからもアイデアが?
子供たちがアイデアを出してくれるんです(笑)。ニンニク入りのソースがいいんじゃない?とか。ピリ辛好きな人は七味唐辛子をかけたり、たっぷりとマヨネーズをかけてみたり。
マヨネーズと七味唐辛子は、黄金の組み合わせですね(居酒屋のエイヒレを思い出した…)
家庭でも真似してお手軽に作れるし、この店でおにぎりや揚げ物を購入して自宅でオニササを食べる人もいると思います。あとソースはブレンドして一味違うものを置いていて。
それはオリジナルのソースを作っていると?
そうなんです。知念商会がオリジナルでブレンドしたソース。これがオニササに合うみたいで、いつの間にか一番人気のソースになっていて。自分好みの味が作れるから調味料選びも楽しいみたいですよ。
楽しめるグルメ。いいですね。そういえば、石垣島の白保集落にも知念商会ってあります?
白保の宮良に。実は私の実家なんです。店は30年ほど経ちましたか。当時は両親に何か仕事をと思い、70歳くらいまで現役で働いてね。父は亡くなったけど、現在、母は90歳。宮良店は今、3名のパートさんが交代で働いてくれています。
両親の仕事場としてオープン。親孝行というか、いいお話ですね。
たまに夕方頃、母のご飯を作りに行くついでに少し手伝ってきます。宮良の支店は空港から近くて観光客が多いんですよ。
おお。観光客にも知られている?SNSなどで宣伝してるんですか。
それが何も(笑)。私たちが宣伝したわけではないけど、自然とお客様が増えていったという。
自然と口コミで広がっていった。
たぶん…。地元の子供たちが来てくれて、いつの間にかお客さんが増えていきました。この店は港から少し離れてますよね?せっかくお客さまが足を運んでくれても、定休日だったら残念でしょ?だから基本は、年中無休なんです。
それで年中無休にしてしまった?サービス精神が旺盛ですね。
年中無休とは言っても、若い子が子育てをしながら働けるようにと、日曜や祭日は小さい子供を持つスタッフには休みを取ってもらい、保育園に通う子供がいたら平日早めに帰宅してもらったりと、無理のない働き方をしてもらってます。
女性社員に優しい、働きやすい環境を提供されてるんですね。
長年働いているスタッフが多く、親子で働く人たちも。石垣島に住むスタッフが結婚して子供が生まれるでしょ?その後、またこの店に戻って働いてくれることもあるんです。
知念商会で働くのは、居心地がいいんでしょうね。
旦那と2人で始めた商店が、いつの間にか従業員30名と大所帯になりました。今働いている従業員を大事にしながら、女性が働きやすい職場でいたいですね。だって社員さんは家族のような存在ですから。
まるで37年前から「働き方改革」を地で行くような会社ですね。朝から営業していると、惣菜などの準備は何時頃から?
お惣菜の担当は、早朝5時頃から出勤してます。大変なんだけど、「早番が好きだから」と言ってくれる従業員もいます。離島では人材不足が深刻というか、厳しくなっているから、タイミング良く求人の応募が来て「この店で働きたい」と言ってもらえると本当に嬉しいですね。
いい温度感。ただ、私たちが想像する以上に離島で長年商売を続けるのは、大変ですよね?
まあ、おっしゃる通りです。一時期は大変でしたけど、どうにかこうにかやっていますかね(笑)。離島で事業を継続していくのは、確かに今は厳しい状況ですけど、地域に密着した大きなスーパーとはまた違った惣菜を販売したりと、この店らしい商品とサービスを提供できたらと思っています。
離島らしい暖かいコミュニケーションが育まれて、働く人たちの顔や人柄が見えるスーパー。お客様と店員さんの距離感の近さといい、ほっこりする「島の商店」ですね。
とても嬉しく思うのは、近くの中学校や高校に通う学生さんたちが、卒業後に県外へ行っても里帰りの時に寄ってくれるんですよ。うわあ、何年ぶり?って。嬉しさと懐かしさで思わず談笑しちゃいますね。
2019年で37年間。石垣島の「知念商会といえば、オニササ!」と認識されていそうですね。笑
時刻にして夕方16時頃。知念商会に常連客が訪れて「ジューシーおにぎりないの?もう終わっちゃったのね…」と店員さんに何度も確認している。
お客さんに声をかけると「ここのおにぎりは、ジューシーさあ。ジューシーがおいしいんだって〜」と笑顔で力説してくる。昼食タイムに合わせて大量のおにぎりを作り、その後は売り切れ次第で終了らしい。
「ジューシーないかあ。ジューシーがおいしいさあ…」
常連客が何度も口にするその言葉を聞いて、ジューシーおにぎりが食べたくなってきた。
しかし、今日はもう終わりか。
んっ? 今日は…終わり!?
翌日の朝。おにぎりと揚げ物がずらりと並ぶ知念商会へ再び訪れていた。
翌朝8時の知念商会で「オニササブーム」が巻き起こっていた
「皆さん、おはようございます。ジューシーのオニササ、リベンジです!」
知念商会の朝は、人の出入りが激しく、車を横付けして観光客も押し寄せていた。惣菜コーナーの揚げ物とおにぎりを来店客が取り囲んでいく。
「あの人たちは観光客だな…」
お客さんの動きを見てると、すぐにわかる。地元の人は手慣れた様子で「オニササ」をセルフで作り始め、周囲をキャロキョロと見回し、少しの戸惑い気味な人たちが、観光客だろう。
サクッとスマートに手慣れた手付きでオニササを手作りしてみたい。
おにぎりは全5種類。たらこ、のりたま、シソ、おかか、ジューシーと、朝は全種類が揃っている。オニササのジューシーVer. リベンジだ!
そして、揚げ物の種類も豊富だった。
揚げ物は約30種類。オニササを食べに来たけれど、ササミカツじゃなくてもよくない?と心変わりする人もいるだろう。
「おにぎりはどれがいい?」
「揚げ物は何にする?」
「調味料はどれを使う?」
セルフで作るオニササは、作るよりも選ぶのに時間がかかる。オニササ初体験の人には、ぜひお伝えしておきたい。別の揚げ物に惹かれたとしても、やはり最初に食べるのは「ササミカツを挟んだオニササ!」がいいと思うんだ。
では、いってみよう!石垣島のB級グルメ「オニササ」を作るなりよ〜
「オニササの作り方」の説明書きを見れば、まず失敗することはない。そもそも失敗など存在しないし、好きなように作ればいいのだ。
最初に、ビニール袋を手に取って好きな揚げ物をチョイスする。
続いて、好きな調味料を選んで揚げ物に直接かける。
食べた感想からアドバイスすると「調味料は少し多めにかける」ほうが、全体的に味のバランスが良くなる。ソースもマヨネーズも、もう少し多めがいい。
お客さんが多くてジューシーの写真が撮れず!初日に撮ったのりたまおにぎり。揚げ物、調味料、続いておにぎりを乗せる。オニササの作り方は至ってシンプルだ。
しかし、最後の仕上げが残っている。
ササミカツの形状に合わせて、むぎゅーっと、おにぎりを潰して指で押し込んでいく。えっ。大丈夫なの?と思うほど、元のおにぎりの形は一切残らない。
しかし、この作業が何気に楽しい。
完成した「オニササ」が、これだ。
見た目のギャップとは裏腹に、食べてみると「何これおいしい〜!」と叫んでいる自分がいた。石垣島に行く人がいたら、「絶対にオニササを食べてこい」と、やや命令口調でお勧めするかもしれない。
「おにぎりなら、2個は食べられるな」
あまり欲張ることなかれ。オニササは、1個でも満腹になる。お会計はオニササを作ったあと、レジへと持っていく。大事な値段をお伝えしよう。
おにぎり70円、ササミカツ150円。
締めて、オニササ1個220円!
石垣島の海でオニササを食べる至福のひととき。
地元の学生たちがあだ名をつけ、常連客の口コミから広がり、手慣れたらサクッと1分で作れる石垣島のB級グルメ「オニササ」には、驚きの楽しさと遊びが詰まっていた。
この日、石垣漁港で食べたジューシー Ver. のオニササは、お母さんの手作り弁当を食べるような懐かしさと温かさを感じて、背景が海だし、格別な味がした。
沖縄本島に戻ってからというもの、もうすっかり、オニササロス…。
「ああ、またオニササ食べたいな…」