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全米一住みたい街・ポートランドの「住民主体の街づくり」を今帰仁村で。村民とともに理想の地域を描くワークショップに参加してきた。

真崎 睦美

2017.09.07

沖縄県北部にある今帰仁村(なきじんそん)に、新しく大きなヴィラが建設されるらしい。

知人知人

沖縄の建設会社が、今帰仁村の運天区(うんてんく)に土地を買ってね。来年に建設予定だよ

1_a今帰仁村運天区。人口約260人。森や漁港のある自然豊かな場所


そんな話を教えてくれたのは、今帰仁村観光協会で働いていた知人である。

 

masaki真崎

ヴィラって宿泊施設ですよね。どんな建物になるんですか?

知人知人

何も決まってない

 

masaki真崎

え?

知人知人

どんなヴィラを建てるかは、運天区の住民と建設会社がいっしょになって1から考えるの

 

masaki真崎

地元住民と外部の企業がいっしょに、ですか?

知人知人

そう。で、今帰仁村で今度ワークショップやるから来ない?

 

masaki真崎

ワークショップ?

知人知人

アメリカのポートランドって知ってる? 「全米で一番住みたい街」って言われている都市なんだけど、そのポートランドの街づくりプロジェクトチームが7月に今帰仁村へ来るのね。それで、今帰仁村・運天区の住民、あと建設会社といっしょに『これからどんな地域づくりをするか』ってテーマで話し合うワークショップをするの

 

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地方の小さな村に、大きな宿泊施設の建設。

そう聞いてわたしの頭に浮かぶのは、テレビや映画などで見たことのある「地域住民が抗議の声を上げる光景」だ。

“部外者が勝手なことをするな”
“大切な自然を壊すな”
“むやみに観光客を増やして地域を荒らすな”

どうしてもそんな、ネガティブなイメージが浮かぶ。

外からやってきた事業者と地元住民との「街づくり」に関する話し合い、はたして円満に上手くいくものなのか。

どのような場になるのかとても興味が湧き、わたしはワークショップへの参加を決めた。

 

「住民主体の街づくり」を実践するポートランドチームのメンバー

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「全米で最も住みたい街」と言われている、オレゴン州ポートランド。

決して大きな都市ではないが、若者を中心に週300~400人もの移住者が来るほどの人気を誇る。自然や公園の多いポートランドは、CO2の排出量が少ない環境先進都市“グリーンシティ”でもある。

しかし、ポートランドも最初からここまで住みよい街だったわけではない。むしろ、1970年代には「米国で最も空気の汚い都市」だったのだ。

当時、この状況を改善するためにまず立ち上がったのは行政だった。住民も巻き込み、官民一体で取り組んだ課題解決。そして約40年もの時を経て、今の姿へと変化を遂げてきたのだ。

この経験から、ポートランドの住民は自分たちが主体となって地域や暮らし方を考えるようになった。そして今も、「住民の幸せ」を最優先とした街づくりが行われている。

このポートランドの成功例を、ヴィラ建設を通して今帰仁村で実践するのが今回のプロジェクトである。

 

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「まずは、地域の皆さんに愛される場所を作りたい」

そう語るのは、大鏡建設の代表・平良修一(たいらしゅういち)氏。

ヴィラ建設、そして本プロジェクトの発起人である。

2年前にポートランドへ視察に行った平良氏。この街づくりを実践して、ヴィラ建設も併せて「住民が暮らしやすい地域」をつくることが、地域と事業の持続的発展には必要不可欠だと確信した。

それが今回のプロジェクト、そしてポートランドチームの今帰仁村招致に繋がる。

 

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こちらは、ポートランド市開発局の経済開発チームに所属されていた山崎満広(やまざきみつひろ)氏

行政の立場からポートランドの発展に寄与した当事者である。近年ではポートランドでの成功例をノウハウ化して海外輸出。和歌山県有田川や千葉県柏市など、日本でも各地の地域活性に貢献している。

 

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そしてこちらは、ポートランドを代表するアーバンデザインスタジオ「PLACE(プレイス)の面々。ナイキ本社のデザインを始め、世界中にプロジェクトを持つ敏腕デザイナー集団である。住民から集めた「理想の街」に関する声を、実際にデザイン・具現化する役割を担う。

 

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「沖縄にくると、顔のおかげで必ず地元の人だと思われる」と語るのは、株式会社PLUS SOCIAL有井安仁(ありいやすひと)氏。生粋の和歌山県民だ。現在ポートランドチームと共に、若者の人口減少が著しい「和歌山県有田川町」の地方創生に取り組んでいる。本プロジェクトにはアドバイザーとして参加されている。

以上が、今回のワークショップ及び街づくりを動かすポートランドチームだ。間違いなく、「住民主体の街づくり」を実践するための最強布陣である。

 

プロジェクトの舞台・今帰仁村は「何もないけど心満たされる場所」

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今回のプロジェクトが行われる、国頭郡(くにがみぐん)・今帰仁村。

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那覇空港から車で約2時間北上した場所にある、人口約9500人の小さな村だ。

この場所には、ショッピングモールやファミリーレストラン、高いビル、大きな娯楽施設がない。その代わり、海や木々、手つかずの大自然がたくさん残っている。夜は早々に真っ暗となり、人の声よりも虫や動物たちの鳴き声がよく聞こえてくるような場所だ。

村のキャッチコピーは「ぬーんねんしが(何もないけど)今帰仁村」。何はなくとも、この場所にいるだけでどこか心が満たされる。それが今帰仁村の大きな魅力である。

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そんな今帰仁村は、CM・ドラマ・映画のロケ地としてもよく使われている。ビーチや村の風景を目にして、「今帰仁村に行ったことはないけど、この場所はどこかで見たことがある」という既視感を覚える人も多いだろう。

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どこか昔懐かしい「沖縄らしい風景」が、この場所にはある。

理想の街づくりを行うためには、まず地域のことをよく知る必要がある。

8_a今帰仁村の喜屋武村長(前列、左から2番目)と一部プロジェクトメンバー

そこで、ポートランドチームはワークショップの本番2日前に現地入りした。時間が許すかぎり今帰仁村を巡り、この地の魅力を存分に味わうためだ。

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まずは、ヴィラ建設予定地の下見に訪れた。

今はまだ、約3700㎡の広大な草むらだ。ここに来年どのようなヴィラが建つのか、その鍵を握るのは今回のワークショップである。

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こちらは、世界遺産・今帰仁城跡。
高く美しく積み上げられた石垣が壮観で、沖縄屈指の名城とされている。

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石垣から見下ろす今帰仁村は、まさに絶景。

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撮影地としてよく使われる、今泊(いまどまり)集落。
おそらく誰もが1度はテレビや映画で目にしたことのある、「沖縄らしい町並み」の代名詞のような場所である。

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標高275mの、乙羽岳森林公園展望台。
今帰仁村の街並みや自然を大パノラマで見渡すことができる。

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橋の駅「リカリカワルミ」では、現地名産の今帰仁スイカが無料で配られていた。もれなく全員食べた。

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地元のおじいが目の前で作ってくれたさとうきびジュースも、もれなく全員飲んだ。

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古宇利島の名物スポット・ハートロック

このハート型の大きな岩には、なんと年間80万人もの観光客が訪れる。世界中の街づくりに携わる優秀な大人たちが、童心に返ってはしゃぎ倒す貴重な図を見られた。

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今帰仁村の豊かな自然は、忙しい大人たちの心を少年に戻るパワーがある。迷わず裸足になって海に入り、浅瀬で小魚を追い回すメンバーたちの姿を見ながら、そんなことを思う。

短い時間ながら、今帰仁村の魅力をぎゅっと凝縮して味わった2日間。

メンバー全員がもれなく村を好きになったところで、満を持して翌日のワークショップに臨む。

ワークショップ本番、地元住民の思いと「外」の人間の知恵が交錯する

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7月23日。迎えたワークショップ本番。

運天区民、今帰仁村民、それ以外の沖縄県民や県外からの訪問者。会場には、総勢約60名以上の参加者が集まった。高齢の方はもちろん、下は中学生まで、地域だけでなく世代も幅広い。

各テーブルでは和やかな話し声がする。しかしどこか緊張したような空気もある。

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そんな中で、いよいよワークショップは始まった。

ワークショップには、ポートランドチームが用意した専用キットを使う。テーブルいっぱいに広げられたのは、運天区の拡大航空図。その上に白い紙を置き、「ここに居酒屋とかどう?」「ここは夕日を見るスポットにできそう」などと話しながら、それぞれが図や意見を書き込む。

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「ここには昔サンゴがたくさんあった」

「この砂浜はウミガメの産卵場だから、あまり人に来てほしくないね」

「この辺りは電照菊の農家があるから夜はキレイだと思う」

運天区民の方々からは、長くここで暮らしているからこそ知っている情報も出てくる。

他のメンバーはその話に耳を傾け、時に書こうとしたアイデアを思い留め、時に新しい発想を浮かべてササッと筆を走らせる。

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“外部事業者と地元住民との話し合い、果たして本当に上手くいくのか”

わたしの心配はまったくの杞憂に終わる。約3時間の長丁場ながら、どのテーブルも最後まで熱が冷めることなく話し合いが続いた。

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最後は、各チームで出た意見の発表が行われる。

どのチームも、大きな紙には所狭しとポストイットにメモ。

ジョギングコースの開設、ゆんたく場所づくり、地元の食材を使った屋台村、漁港で朝市場……。ここで書き始めるとキリがないほど、5つのチームからありとあらゆるアイデアが飛び出す。

中には「売店がほしい」「高齢でもできる産業をこの場につくってほしい」など、運天区民の願いを反映した意見もいくつか見られた。

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各グループの意見が書き込まれた紙は、ポストイットも1つ残らずまとめてPLACE側が回収する。

今回出た意見は、もちろん全てが実現を約束されるわけではない。

しかし、参加者たちの思いは一度全て実現を検討される。そして、長期的スパンにはなるが、住民にとって一番いい形で最大限実現できる努力をすると約束された。

「ワークショップが“成功”かどうか、判断できるのは今後」

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ワークショップ終了後、そのまま会場で懇親会が行われた。BBQや今帰仁スイカを食べ、時に泡盛を飲みながら、参加者同士で和やかに談笑する様子が見られた。

そんな中、運天区の高田区長に話しかけ今回のワークショップについて感想を伺った。

「今日のワークショップ、雰囲気は良かったと思います。区民も話し合いには前向きに参加していました。

しかし、だからといって現時点で安易に“成功”とは言えません。

プロジェクトは今日がスタートですから。年単位の長期で見てようやく成果が出るものなので、意見を聞いて実現に向けて動くこれからが重要です。告知をしたけど今日参加していない人や、手つかずの自然を壊してほしくないと不安に思っている人もいるのが事実。

この状況で今後どのようにプロジェクトが動いていくのか、期待もしながら見守りたいと思っています」

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区長の言葉通り、このプロジェクトはこれからが本番だ。

今回のようなワークショップをあと数回重ね、出た意見をしっかりと反映させながらヴィラや周辺環境をデザインし、完成後も長きにわたって運営が続く。

ポートランドとて、約40年をかけて今の姿へと変わったのだ。

街づくりの成功は、一朝一夕で判断できるものではない。

これからこの地にどんなヴィラが建ち、地域ができ、地域住民と来訪者との間にどのようなコミュニケーションが生まれていくのか。私も、このプロジェクトの行く末を楽しみにしながら追い続けたい。

これから沖縄に来る方や県内に住む人にも、ぜひ、今帰仁村・運天区を訪れてみてほしい。

地域住民との温かい交流が生まれる場所に、きっと出会えるはずだ。