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そう。その日は、いつもと同じ朝だった。
僕はいつも通り、目を覚まし、寝ぐせを直すために寝室を出ようとした・・・。
そのときだった・・・。
松田さん。おはよう。
誰もいないはずの部屋から声が聞こえた。
当然僕は独身なので一緒に住んでいる人などいない。
気づいて。
僕に声をかけてきたのは、観葉植物だった。
過去に、部屋をオシャレにしようと思ってホームセンターで買った観葉植物。
「元気に育て」と、愛を持って、ときどき水はやっていたけど、なぜか枯れていったんだよな・・・。
やっと気づいてくれたね。
初めまして、松田さん。私は、観葉植物に宿った魂よ。松田さんにとって大事なコトを伝えるためにアナタに語りかけているの・・・・。
草が喋ってる・・・。大事なコトって・・・?
第1章『風水との出会い~人間と観葉植物~』
はっきり言うわ。この部屋、気の流れが最悪よ。
気の流れ・・・?
そう・・・・。「気」っていうのは、なんとなく聞いたことあるでしょ?中国発祥の考え方で、中国では今も生活の軸にあるものよ。
・・・・・・。
「風水」という言葉は知っているかしら?日本で「風水」や「気」っていうと、占いをイメージするかもしれないわよね。ここ沖縄にも「琉球風水」というものが存在するの。
琉球風水・・・?
そう。アナタの通っている琉球大学で琉球風水の第一人者である、目崎和茂先生が講義をするわ。まずはその講義をうけてきなさい。
わかりました・・・。
第2章『風水との距離が縮まる〜琉球風水を学ぶ〜』
今回お話を伺ったのは、三重大学の名誉教授・目崎和茂先生。
琉球大学で行われた集中講義に参加してきました。
【教授プロフィール】※敬称略
・目崎 茂和(めざき しげかず)
1945年生まれ、新潟県出身。三重大学名誉教授。専攻分野は、自然地理学、環境学、サンゴ礁学。環境調査で世界各国を訪問するうち風水学に魅せられ、正統的な風水研究家として知られるようになった。サンゴ礁研究では、日本を代表する研究者。昭和63年に日本ジャーナリスト会議奨励賞を「石垣島・白保サンゴの海」で共同受賞。
著書に、「図説 風水学」東京書籍(1998年)「琉球弧をさぐる」沖縄あき書房(1985年)、「南島の地形」沖縄出版(1988年)、「石垣島・白保サンゴの海 ―残された奇跡のサンゴ礁」高文研(1998年)などがある。
では、授業を始めていきますよ。
まず、みなさんは「風水」に対して、どのようなイメージを持っていますか?
(どのようなイメージ・・・?あんまり今まで考えたことはないな・・・・。)
風水というのは、周囲の環境を認識して、自分と調和させる生活術です。近年の風水ブームによって、風水は占いの要素が強いものだと思われる方が多くなっているようですが、本来は経験則に基づいた学術なんですよ。
そして風水では、認識・調和をする際に“気”という概念を使います。
“気”というのは、宇宙、自然、植物、動物、人間などのあらゆるものを繋ぎ合っている、巨大なエネルギーのようなものだと、考えられています。
この“気”は、地上にある『龍穴(りゅうけつ)』と呼ばれる場所から噴き出していて、風や川や地下水脈によって運ばれます。
風水においては、まずそこに流れている気が、良いか悪いかが大切です。良い気は自分たちの住んでいる場所に取り入れて、悪い気はうまく流れるようにする。これが風水の基本の考え方です。
天気、景気、活気、やる気など、日本には「気」が含まれる言葉が数多くあります。日本人は昔から、自分の状態を気という言葉で表現してきたんですね。だからもちろん、人の身体の中にも気はあるんです。地上にある龍穴のような役割をするのが『ツボ』で、そこから気が出て体内に流れています。
元々は中国発祥の文化で、沖縄には琉球王国時代に伝わってきました。日本本土にも風水の概念はありますが、中国の風水を直接受け継いでいる沖縄が、日本で唯一の正統派風水の地であると言えるでしょう。
風水が沖縄に伝わったきっかけとして大きいのは、「ジィッカ・パッカ」という人の功績です。彼は航海の途中で難波し、石垣島に漂着したのち、川平(かびら)村に住んで家族をもちました。そこで村を見ながら、村の人たちに風水を教えていたと言われています。彼の教えを受け、たくさんの沖縄の人が中国に風水を学ぶため留学しました。そのうちの一人の「蔡温」という人は、琉球王府の宰相となり、風水師として琉球王国の国づくりに携わりました。
さてでは、沖縄の国づくりにおいて、風水が具体的にどのような形で取り入れられたのかを見ていきましょう。
沖縄で風水が使われた事例として大きいのは、首里城です。首里城は、このような配置になっています。
北に弁ヶ岳があり、南に龍潭池や真嘉比川があります。そして南に向かって景色が開けている形になっているんですね。これは『蔵風得水(ぞうふうえすい)』といって、良い気をとどまらせることができる風水の理想形となっています。逆に、北に水があると悪い気が流れてくることになります。これは『背水の陣』という言葉の語源になっていて、いい生活ができる環境ではなくなります。
沖縄の海辺には、フクギやアダン(パイナップルのような実をつける植物)が植えられているのを知っていますか?フクギは、備瀬のフクギ並木が観光スポットとしても有名なので知っている方も多いと思います。海からの潮風が作物や家の傷みをひどくするので、潮風から村を守る防風林としてフクギが植えられました。
防風林は、村をぐるっと囲むように作られました。沖縄では山が少ないので、海辺はとくに平坦な地であることが多かったのです。そこで、山の代わりになるようなものとして、村を囲むようにつくられました。だからフクギ並木などは、かつては村に悪い気が入ることを防ぎ、かつ、村に気をためる役割をしていたわけです。
本土から沖縄にくると印象的なのが、「沖縄のお墓」だと思います。本土でいう墓は霊魂を安置する場所という意味合いが強いですが、沖縄では死者の家です。だから沖縄では墓も、風水を見て建てられます。沖縄の風景を見ていると、少し小高い場所に墓が並んでいます。
これは、風水的に高い場所というのが、あの世を表すからなんです。また向きも重要で、墓が建っている丘や山を背にして、南を向いていることが多いです。また、沖縄の大きい墓は『亀甲墓(きっこうばか)』と言います。墓は死者が永遠に住む家なので、永遠に家が続いていくようにという思いが込められて亀の甲羅のような形になっているのです。それに関連して沖縄では、墓建設の日時、土地選定や方向決めなど、すべて風水の原理によって決めていました。
そして、人間の中にも気はあります。みなさん、『気功』という言葉を聞いたことはありますか?カンフー映画が好きな人だと、よく聞く言葉かもしれません。気功というのは、体内の気を強化して、気の流れをスムーズにすることで体調を治す健康法です。映画の影響で、相手を倒すための技として捉えられがちですが、本来はそういうものなんですよね。
さて、これまで沖縄における風水の話をしてきましたが、これから自分の身近にどう風水を活かしていくかという話をしましょうか。風水とは、自分と周りの環境を調和させる生活術だと言いましたね。ここで大事なのは、周囲と調和させるために、自分をコントロールすることです。例えば、自分と気の合わない人といるより、気の合う人といたいじゃないですか。そういうふうに、周りにいる気の合う人を探して、いかにその場所で気の良い状態を保ち続けるか、というのを実験しながら考えるのが、風水なのです。
自分の部屋においては、まずその部屋が快適か不快かという判断が重要です。不快ならば、そもそもその部屋との気が合わず、快適ならば気が合っているのです。
そして、その部屋で自分が一番気持ちよく過ごせる場所を探しましょう。そこを寝室とするか、リビングとするかなどは、個人の自由です。さらに、インテリアの色使いも大事です。自分にとって心地いいバランスの取れた色使いが、自分の気を保ってくれます。
例えば、暑いのが苦手な人はカーテンの色を青にするとか、逆に寒いのが苦手な人は冷気を感じる場所に暖色の花を置くとか、そのような工夫をすることで良い気を保てる場所になるんですね。季節に合わせて色を変えるのもとても大事です。
だから風水占いでよくあるように、どの方位に何色を置けばいい、という単純なものではありません。しかし風水的には、方位によって色が決められています。北は黒、西は白、東が青で、南が赤、真ん中が黄色とされていて、とくに『西に黄色いものを置くと金運が上がる』とはよく言われますね。
では、授業はこれで以上です。ご自分の生活に風水を取り入れてみると、今よりも心地よく生活ができるようになるかもしれません。
じゃあ、最後に出席表だけ出してね―――。
第3章「風水を実際に取り入れる〜良い気に満ちた部屋づくり〜」
風水について、ちゃんと理解できたかしら?
つまり、自分の体や生活している環境に、良い気を取り込んでためるための工夫が必要だということですよね?
そうね。上出来よ。じゃあ早速、部屋の模様替えをしていきましょう。まずこの部屋の方位と間取りは、こうなってるわ。
玄関が北を向いているから、悪い気が入ってきやすい。だから何か遮るものをおきましょう。
遮るものなんて・・・
石垣島とかにいくと、家の玄関部分によくあるヒンプンの代わりについたてを立てておきましょう。
ヒンプンには、魔物や悪い気を防ぐ役割があると言われているので、ちょうど代わりになりそうです。
そして玄関の近くには、魔除けのシーサーを置いていきましょう。
シーサーロボ。
トランスフ●ーマーっぽくてかっこいいですね。
きっと魔物が来た時にはトランス●ォームして退治してくれるコトでしょう。
じゃあ次は、寝室とリビングを分けましょうか。
間取りでお見せした通り、この部屋はただの一間です。
ぼくは寝室とリビングは分けたい人なので、仕切っていきます。
今回は、つっかえ棒とひもでカーテンを固定して区切ってみました。
そして、寝ていると体が冷えがちなので、暖色を使い、ホットな空間にしておきます。
・・・裸電球はちょっとホットすぎました・・・・
最後に、部屋の中の気を上げましょう。
部屋の西側に、白いフレームを用意します。
いい感じの黄色い布をかけます。
風水的に、黄色はお金を意味しまして、白と黄色をあわせると、金色になるのです。
こうしておくと、お金に関する気が増幅されると言われています。
せっかくなのでこの中に・・・
ウエルカムフードを入れておきましょう。
食べると体に良い気の流れをもたらしてくれるバナナです。
模様替え、終わりましたよー。ってあれ?
なんで光ってるんですか?
ねぇ・・・
きたきたきたきたきたきたきた
きたー!!!
どうも、バラです。
・・・・・。
実は私、魔法の力でクサに姿を変えられて、売り場に出されていたバラだったの。
そ、そうだったんですか。(なにその設定・・・・。)
アナタの部屋に来たときは愕然としたわ。あぁ、これからは、こんなに悪い気に満ちた部屋で、枯れていくだけなんだ、って。でも今日、良い気に満ちた部屋にしてくれたおかげで、私はもとの姿に戻れたの。礼を言うわ。
知らないうちに、そんな負担をかけていたなんて・・・。申し訳ありません。これからはちゃんと良い気に満ちた部屋づくりを心がけるので、ともに生きていきましょう。
ま、それも悪くないわね。
エピローグ「僕たちはお互い歩み寄って、苦難だって乗り越えていけるんだ」
誰かと一緒に住んでいたら、うまくいかないことはたくさんあるかもしれない。
それはそうだ。僕たちは他人で考え方や、価値観、暮らしやすい環境だって違う。
それが人間でなく植物であれば尚更だ。
でも僕たちはお互い歩み寄っていけば、どんな苦難も一緒に乗り越えていける。
僕はそう確信していた。
※今回の記事の内容にはフィクションも多く含まれております。何卒ご了承ください。